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「――牛乳か」
「――牛乳だよ」
美鶴の家に向かう前。
俺はコンビニで、牛乳を購入した。
……何故か美鶴が金を出すと言ったので、一番高い瓶の牛乳を選んだのは割愛だ。
美鶴の部屋に着いた後。
ベッドに座った美鶴が、コンビニで買ったクッキーをレジ袋から取り出した。
「……今更、効果あんのか?」
「殴るぞ」
小さい頃はそんなに変わらなかった、俺と美鶴の身長。
なのに、いつの間にか差ができていた。
それを優越感だとでも思っているのか、美鶴はとにかく笑顔だ。
……憎たらしい。
俺は俺で、牛乳を早速飲み始める。
……別に、牛乳を買ったのは身長を気にしたからじゃない。たまたま、丁度、飲みたくなっただけだ。
フタをあけて口を付けると、冷えた牛乳が喉を通る。
……ヤッパリ、瓶の牛乳は美味しい。
人の金……相手が美鶴というのも、なんだか美味しく感じるな。
「…………な、何だよ」
視線を感じて、ベッドを見てみた。
美鶴が、やけにこちらを見ているのだ。
……なんとなく、恐怖を感じるくらいに。
「……いや」
……何でもないなら見るなよ。
視線の理由を言うつもりはなさそうなくせして、目は逸らさない。
(そんなにジロジロ見られると、さすがに気にするんだが……)
上着を脱いで、再び牛乳に口を付ける。
だけどヤッパリ、美鶴の視線が気になった。
「……言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
「言ったら怒るだろ」
「怒るようなことを言うならな」
クッキーの箱をあけて、そのまま一枚、美鶴がクッキーを食べ始める。
……ただクッキーを食べてるだけなのに、絵になるんだからムカつく。
「……美鶴、俺にもクッキーちょうだい」
「こっち来いよ」
「う……っ!」
美鶴の言う『こっち』は、ベッドだ。
――金曜日の、放課後。
――ベッドですることなんて、一つだけ。
「や、やだ……っ」
「じゃあ、クッキーは俺様が全部いただくぜ?」
「な……っ! ひ、卑怯だぞ!」
「一番高い牛乳買わせた奴が言うセリフか?」
しばらく睨み合うも、美鶴は一向に折れる気配がない。
それどころか、睨み合っている間も美味しそうにクッキーを食べ進めているくらいだ。
腹が立つくらい、わざとらしく。
(く、そぉ……っ!)
背に腹は代えられないとは、まさにこのこと。
俺は仕方無く、美鶴のテリトリーに入った。
ベッドに腰掛けると、美鶴が笑う。
「よし、いい子だな」
そう言って、俺にキスをしてきた。
「んっ。……いい、から……っ、はやくよこせって……」
「分かったっての」
美鶴とのキスは……まぁ、嫌いじゃない。
だけど、今流されたら確実にクッキーが食べられなくなる。
これは俺の勘だ。
俺は美鶴の胸を押し返して、顔を逸らす。
やっと渡す気になったのか、美鶴がクッキーを一枚、俺の口元に運んだ。
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