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「ありゃチートですよ。ミスターパーフェクトマン。幸せしか知らんような顔して、バーテンダーかっけーってなってるアホだ。その上、南大だあ?ふざけてんだろ。アホのくせに頭良いとかブレてんだよ。所詮僕みたいなFラン大生見下して、高飛車してんですよ」  那緒がいなくなった頃合いを見計らい現れ、彼が拭いたワイングラスを嫌味のように照明へかざす手。  小姑さながら文句を垂れるのは、店長である珊瑚の異母兄弟、琥珀(こはく)だった。  口を開けばダークネスで、那緒と真逆の世界に生きる暗黒クソ人間だが、ウチの店らしい通常運転の会話に、なんだか今日はほっとする。 「鷗さん、絆されちゃダメですよ?あんなん天然タラシですよ?ケツ揉まれてメス顔してる場合じゃないですから。言っときますけどね、鷗さんの本性知ったらみんなドン引きですからね。鷗さんマジ欠陥人間なんですから、人並みにイケメンにはわわわ、ってなってる立場じゃないですからね」  いいですか、と念押しの腹パン。  珊瑚いわく、性格が歪んだのも家庭環境のせいが半分だから、大目に見てやって欲しいとのこと。  まだハタチになったばっかのどうしようもないガキで、人との接し方がまだ下手くそなだけとのこと。  だから俺は、わかってる、といつも通りうなずく。  琥珀と同じく、自分も那緒とは正反対の世界の住人であることは百も承知だった。 「無駄にキラキラしやがって、何様なんだって話ですよね。僕ああいうタイプ苦手なんですよ。兄ちゃんも兄ちゃんですよ。僕らへの当て付けみたいに、あんなん雇って。なーにがアットホームな職場だ。月に何人辞めてったか教えてやりたいですよね」  一般的な成人男性より幾分小さく、可愛らしい指先が俺の尻を抓りあげる。  誰のせいで辞めてったと思ってんだ、とは、口が裂けても言えなかった。  

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