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第2話

 その後も、琥珀の地味な嫌がらせを物ともせず、那緒は毎日明るく出勤して来た。  自分が新人だった頃の1年が、彼にとっての数週間で、那緒は仕事覚えも良く、ウチじゃ珍しく客からの評判も良かった。 「珊瑚さんの作る料理って、なんかこうオシャレですよね?お酒とかも。俺、食えたらなんでも良いって思ってたんすけど、見た目綺麗だともっと美味しく感じるんだって気付きました」 「や、やあね。こんなん普通よ。私もまあ、ちょっとホテルシェフ経験があるから、まあ、プライド的なのもないこともないし」  お互い最終学歴となった高校時代、珊瑚は俺の先輩だった。  ド底辺工業男子高校で2回ダブった珊瑚は、学校じゃある意味伝説級のバカで、当時から自称ネオおかまを名乗っていた。  おかまのくせにバリタチ。  俺は珊瑚のおもちゃでパシリ。    それでも可愛がってもらったこともあったし、今もこうしてどうしようもない自分を渋々ながら働かせてくれているわけで。  恩義を感じている部分もあった。 「てゆうかあ、那緒ちゃんこんな毎日シフト入ってもらってて大丈夫なの?ほら、南大って名門だし、学業忙しいんじゃない?私ら、高卒で大学とかよくわかんないから、ね?」  ちらりと珊瑚に目線を合わされ、すかさず俺もうんうんと同意する。  大学なんて金銭的にも能力的にも夢みたいな話で、那緒が眩しい理由の一つでもあった。 「いやいや、僕も大学行ってっから。兄ちゃんの言う多忙な学生だからね。差別すんなよな」  スマホをいじりながら、琥珀が舌打ちした。 「そういえば、琥珀の大学ってどこ?俺、ここに入って珊瑚さんと鷗さんとはよく話すけど、琥珀とはあんまだったなーって。ハタチってことは1つ下だろ?」 「は?兄ちゃんはともかく、鷗さんには那緒が一方的にマシンガンしてるだけでしょ?僕の大学はどこでもいいよ。天下の南大に比べちゃ月とスッポンだから」  琥珀のスマホがぽこん、と間抜けな音を立てた。

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