6 / 50
02
「それよか、鷗さんの話しようよ。僕のことより数百倍面白い人生送ってるから。ね、鷗さん」
「え、いや、そんな面白いとか」
猫撫で声でわざとらしく俺に擦り寄る琥珀が、おもむろに尻を抓る。
カウンターを挟んで向こう側にいる珊瑚と那緒には、こちらの様子はわからないようだった。
「へえ、俺知りたいですよ。鷗さんめっちゃ興味ありますもん。理想なんですよね、オトナの」
「あははは。人生経験豊富な鷗さん。那緒にオトナの手解きしてあげてくださいよ。ね、ほらほら」
店に客はいない。
暗がりの店内に、助け船を出す味方はいない。
「どこからいきます?両親に虐待されて施設ブチ込まれたこと?出てきて速攻叔父さんにレイプされたこと?躾って言って自分のじいさんから、高校生になっても裸で放り出されてたこと?あ、未だにお尻開発されてることの方がインパクト強めかな?」
琥珀の乾いた笑いが、店内に響いた。
喋ったのは珊瑚。
でも彼は知らんぷり。
恥ずかしさと情けなさに顔が引きつる。
「この前の店のイベント、男体盛りで客に提供されたんだよね。包茎粗ちんぽ摘まれて、ひんひん泣いてる動画、どっかにあったはずなんだよな、見る?」
「や、やめ」
琥珀の指がスマホをスクロールする。
目的の動画を出す前に、那緒がボソっと呟いた。
「前々からなんとなく思ってたけど、琥珀、おまえ性格歪んでるよな」
「は?那緒が鷗さんをクールだなんだって盲目に崇めてるから、現実見せてやろうって話じゃん」
「おまえ友達いないだろ。自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないって、単純なことも知らねーの?」
普段の那緒からは想像もつかない冷たい声。
口ごもる琥珀に、見かねた珊瑚が口を挟んだ。
「気分悪くしてごめんなさいね。この子、ちょっと家庭環境的に人付き合い下手くそで。那緒ちゃんと仲良くなりたい一心で、こんな風に言ってるだけだから」
ある意味で修羅場。
そんな状況下、悔しいとか悲しいとか差し置いて、不謹慎にも那緒に心臓を揺さぶられる自分がいた。
ともだちにシェアしよう!