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「それよか、鷗さんの話しようよ。僕のことより数百倍面白い人生送ってるから。ね、鷗さん」 「え、いや、そんな面白いとか」  猫撫で声でわざとらしく俺に擦り寄る琥珀が、おもむろに尻を抓る。  カウンターを挟んで向こう側にいる珊瑚と那緒には、こちらの様子はわからないようだった。 「へえ、俺知りたいですよ。鷗さんめっちゃ興味ありますもん。理想なんですよね、オトナの」 「あははは。人生経験豊富な鷗さん。那緒にオトナの手解きしてあげてくださいよ。ね、ほらほら」  店に客はいない。  暗がりの店内に、助け船を出す味方はいない。 「どこからいきます?両親に虐待されて施設ブチ込まれたこと?出てきて速攻叔父さんにレイプされたこと?躾って言って自分のじいさんから、高校生になっても裸で放り出されてたこと?あ、未だにお尻開発されてることの方がインパクト強めかな?」  琥珀の乾いた笑いが、店内に響いた。  喋ったのは珊瑚。  でも彼は知らんぷり。  恥ずかしさと情けなさに顔が引きつる。 「この前の店のイベント、男体盛りで客に提供されたんだよね。包茎粗ちんぽ摘まれて、ひんひん泣いてる動画、どっかにあったはずなんだよな、見る?」 「や、やめ」  琥珀の指がスマホをスクロールする。  目的の動画を出す前に、那緒がボソっと呟いた。 「前々からなんとなく思ってたけど、琥珀、おまえ性格歪んでるよな」 「は?那緒が鷗さんをクールだなんだって盲目に崇めてるから、現実見せてやろうって話じゃん」 「おまえ友達いないだろ。自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないって、単純なことも知らねーの?」  普段の那緒からは想像もつかない冷たい声。  口ごもる琥珀に、見かねた珊瑚が口を挟んだ。 「気分悪くしてごめんなさいね。この子、ちょっと家庭環境的に人付き合い下手くそで。那緒ちゃんと仲良くなりたい一心で、こんな風に言ってるだけだから」  ある意味で修羅場。  そんな状況下、悔しいとか悲しいとか差し置いて、不謹慎にも那緒に心臓を揺さぶられる自分がいた。

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