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第5話

「今日は、特別暇ですね」  腰から下の、長いソムリエエプロンを結び直しながら琥珀が言った。  あれ以来まともに口をきいていなかったので、最初は自分が話しかけられているなど思わなかった。 「え、あ、俺に言ったの?」  周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認して、ようやく自分だと気付く。  それすらも腹立たしいらしく、琥珀は惜しみなく舌打ちを繰り返した。 「他に誰がいるんすか。相変わらず脳みそ腐ってますよね、鷗さんて」 「う、ごめん」  辛辣でダークネスな通常運転。  抓られないように、さり気なく距離を保った。 「僕、昨日、那緒とごはん食べに行ったんですよね。那緒って大食漢なんですよ。ザ大学生って感じで、焼肉何人前分もぺろっと食べちゃってさ。聞いたらよく食べて、笑う子がタイプなんですって」 「よく食べて、笑う…」 「残念ですね。鷗さん偏食キツイし、食べたら吐くんですよね、だから全然好みじゃないっぽいですよ、カワイソ。肋骨浮いてますもんね、ガリすぎて」  スマホの画面をこれ見よがしにこちらへ向ける。  そこには、屈託のない笑顔でピースする那緒と、どや顔の琥珀が映っていた。  待ち受けにするなんて、意外に乙女チック。  前々から感じてはいたが、琥珀はとにかく惚れっぼい。崖を転がる小石のごとく、誰彼構わず恋をする。  もともと素材は良い方だし、店に来る客なんかは琥珀にころっと騙されて、高速移動でベッドイン。  本性が露呈して長くは続かないが、絶え間なく恋をする恋愛体質なんだろうな、と思っていた。 「そのあとスーパー銭湯にも一緒に行って、那緒着痩せするタイプなんですよね。案外マッチョ。結構鍛えてるって感じで、やっぱイマドキの大学生って凄いなってなりましたよ」  琥珀が光悦とした表情を浮かべた。

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