18 / 50

第6話

 バー開店前のロッカールーム。  パイプ椅子で足を組む店長の珊瑚は、俺を呼び出すや否や床に正座しろと命令する。 「あんた最近、いつも以上にたるんでんじゃない?」    単刀直入にそう言われ、心当たりが山ほど思い浮かんだ。 「割ったグラス4つ。皿3枚。頻繁にオーダーミスするし、サーブミスも目に余るわ」  もちろん給料から天引き。  珊瑚の言葉に、がっくしと肩を落とす。  ただでさえ、能力給などと称して長時間働いているわりに給料が一番安いのだ。  店近くに借りているボロアパートの家賃ですらカツカツの俺にとって、天引きは死活問題だった。 「それより酷いのが、重形(おもがた)さんのリクエスト蹴ったって話。昨日の夜、鬼電されてぐちぐちがみがみ言われた私の身にもなりなさいよッ」 「うぐ、それは、その」 「重形さんはウチのグループのお偉いさんかつ、羽振りの良い常連客だって散々教え込んだでしょ?言われたことは全部イエスよ。ノーはないの!」  近くに立て掛けてあったもう一脚のパイプ椅子を、珊瑚は長い足で蹴り飛ばした。  ガシャンッ、と大きな音が響く。  大きな物音や罵声には慣れているはずなのに、かたかたと体が震えるのを感じた。 「何リクエストされたわけ?」 「あの、えと。パンツ、下ろせ、と」 「答えはイエス!喜んでパンツくらい下ろしなさい」 「いや、でも、女の人もいたし。ずっと言いたかったけど、やっぱりそうゆうのは、やりたくないから」  脳裏に那緒の笑顔が浮かぶ。  喜んで下着を脱ぐ自分を見た彼に、軽蔑されることが酷く怖かった。 「ただでさえ、無価値な人間なのよ?ナチュラルに頭悪くて、ケツまんゆるゆるの欠陥品が、なに偉そうに一人前の口利いてんのって話!」  癖の悪い足が、今度は俺の腹を捉えた。 「うぐううッ、うげ、げほ、げほッ」  鳩尾に食らった強い痛みで、目の前にチカチカと星が飛ぶ。胃液が中からこみ上げた。  

ともだちにシェアしよう!