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02
那緒の思う理想とか、クールとか、全部違う。
俺は本当にダメなヤツで、俺といるとみんな嫌なヤツになる。
通話の切れたスマホを片手に、急に心細くなった。
傷だらけの膝を抱え、唇を噛む。
薄いカーテンの向こうに、チカチカと点滅するたくさんの光が見えた。
窓一枚向こうはこんなにも明るいのに、俺の周りはいつも真っ暗闇だった。
伸ばした手は、誰も掴めない。
俺は本当に、ダメなヤツで。
「ダメじゃないですよ、全然」
いきなり、俺の肩を、誰かの大きな手が力強く抱き寄せた。
俺を痛めつけようとしない、優しい手。
俺を辱しめようとしない、温かい手。
顔を見なくったってわかる。これは、那緒だ。
「なんで」
唇が震える。
見上げれば、肩で息をする那緒の姿。
「なんか、鷗さんが、いなくなっちゃいそうで。一人で悲しんでそうで。俺みたいなガキ、迷惑だってわかってんですけど、鷗さんが辛いとき、そばにいたいって思ってるから。だからさ」
那緒の腕が、俺の体を包み込む。
那緒は、俺を傷つけない。
那緒の優しさにつけ込むズルい俺は、那緒の優しさにすがりつく。
「なんで、来たんだよ」
「すいません。だって、鷗さんが」
俺に会いたいって言ってくれたんじゃないですか。
胸に寄せた耳へ、彼の心音が伝わってくる。
俺の言葉はいつだって無意味で、小さくて、誰にも届かなかったはずなのに。
そんな声すら那緒はすくい上げてくれるのだ。
ちっぽけな俺にも、話していいんだよ、って。
言葉が、心臓から込み上げる。
「…あ、な、那緒、俺、あのな。全然、おまえの、俺、ぜ、全然オトナじゃなくて…だから、俺」
那緒の手にきゅっと力がこもる。
俺はずっと誰かにこうしてもらいたかった。
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