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03
「那緒、あのな。俺といると、たぶん、不幸だ」
ふう、とため息を吐く。
それから息を胸いっぱいに吸い込んで、この日のために30年間とっておいた言葉を、ゆっくり、ゆっくりと紡いでいった。
「那緒を、不幸にするのは、嫌だから。那緒は幸せに生きる方が良いから、だから」
支離滅裂で、とりとめのない思い。
それでも那緒は黙って俺を抱きしめてくれた。
「不幸にしたくないのに、俺、那緒と。那緒といたいって思ってる。那緒が、す、好きだから」
気がつくと、涙があふれていた。
息が荒くなる。
それから、顔が熱くなるのを感じた。
「…バカだなあ、鷗さんは。俺がしたくて、こうしてんじゃんか。鷗さんが誰にも幸せにしてもらえなかった分、俺と幸せになってよ」
那緒が俺の顔を覗き込む。
初めて会ったときの子犬のような顔じゃない。
穏やかで頼もしい男の顔。
涙が止まらなかった。
声をあげて泣いたのは何年ぶりだろう。
那緒が俺の髪をすいた。
金色のぼさぼさした髪を、俺の耳にかけてくれる。
そこに汚いものを見る目はない。
唇に、優しい熱を感じた。
何度も経験した口づけと、1ミリも同じじゃない。
好きで、好きで、欲しくて、渇望する愛情。
今まで存在を掻き消され続けてきた全ての俺が、那緒に、那緒だけに、愛してくれって叫んでいる。
恐る恐る背中に回した腕は振り払われることなく、お互いの唇を重ね合った。
離れることが惜しい。
離れた瞬間に近づきたくなる。
「はあ、は、はう、な、那緒っ、なお、那緒ッ」
「鷗さん、必死。かわいい」
「そ、そう、俺、クールじゃない。俺、必死なんだ」
俺は、忍びないほどのオンボロ布団に、那緒の体を押し倒した。
「熱い鷗さんも、素敵です」
那緒に跨った俺は、再び彼に唇を重ねる。
必死だ。
これが、愛だから。
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