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第8話※
那緒の目には、俺が酷く滑稽に映るだろう。
本当の俺はいやらしくて、はしたなくて。
物理的に繋がらなければ不安になる。
少しだけしっとりと汗ばんだ那緒の体に触れた。
琥珀に聞いていたよりうんと、那緒に欲情する。
適度に引き締まった上半身に、俺は顔を埋めた。
俺にできる唯一の武器だ。
体を使うことには慣れている。
俺の体に、那緒へやれる初めては何も残っていないけど、好きだって気持ちはおまえにだけだ。
那緒が幸せだって思えるように。
せめて、満足させなければ。
気持ち良くなってもらわなければ。
……あれ?
幸せなセックスって。
どうやるんだっけ。
勢い任せに全裸で跨った俺の脳が、一瞬で冷える。
那緒の腹に、貧相な俺の性器がへばりついていた。
あれほどに昂った感情が、空気が抜けてしぼんでいくかのごとく小さくなる。
「那緒、あの、俺。俺が、ちゃんと、やるから。大丈夫だから。那緒には、ちゃんと気持ち良くなって」
おかしいな。
これしか脳がないんだろ。
なにやってんだ、俺。
「那緒、心配いらない。口で、口でするんだった。ちゃんと那緒のかたく。自分でできるから」
ベルトのバックルをがちゃがちゃと外す。
指先が震えて、体中あちこちがかじかんだみたいに寒くなって、視界がぼんやりと薄れていく。
「那緒、那緒。できるよ、俺ッ!あんま上手く、ないけど、ちゃんとするから…だからさ」
ジーンズのチャックが絡まる。
赤いボクサーパンツのゴムが、隙間から覗いた。
早くしなければ、呆れられる。
那緒が体を起こすのを感じた。
顔を上げる勇気がない。
これすらも、できない俺が、那緒を繋ぎ止められるわけがない。
「鷗さん」
「ま、待って!大丈夫、待って!お願い。ちゃんとするから、心配ないから」
「鷗さんッ!」
「や、やだ、嫌だッ!できるんだって!う、う…ひぐ、う、うあ、やだ、やだやだ!ちゃんとするからああッ、お願い、す、捨てないでよ、やだよ、那緒、ご、ごめん、ごめんなさいい」
無様に首を垂れる。
捨てないでと、みっともなく懇願する。
泣き喚いて、駄々をこねる赤ん坊のように、俺は布団へ額を擦り合わせた。
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