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第9話※

 那緒の口利きがあったおかげで、店には意外とすんなり戻ることができた。  今後は二度と仕事をサボらない。  それから珊瑚の指示には絶対服従を条件に、俺は再びバーの床をモップで磨いている。  琥珀の当たりはますます強くなったし、珊瑚からは無理難題を押し付けられるようになったが、那緒のそばにいられることが、今の俺には何より幸せだった。 「鷗さん、ちょっと」  那緒に手招きされると、俺は飼い慣らされた犬のようにしっぽを振って彼の元へと駆け寄る。  以前はそんな自分、想像しただけで虫唾が走ったというのに、恋は人を盲目にさせ、現金になった。 「きょ、今日、仕事上がったら、俺の家来る?前、一緒に映画観たいねって那緒言って」 「それよりさ、また、ちょっとだけいい?」  目の前で両手をぱちん、と合わせ、那緒が俺の顔を覗き込む。 「俺ほんと、鷗さん見たら凄く甘えたくなるっていうか、チャージしたくなっちゃうんだよね、愛情」    屈託ない笑顔が、バーの薄暗いライトにぼやける。  なんでも完璧にできるスーパーマンのような那緒が、こうやって自分にだけはわがままになるところも、正直嬉しかった。  モップを取り上げられ、代わりに俺の胸へ柔らかな茶色い髪が飛び込んで来る。  身を屈める丸っこい頭を抱いてやると、俺自身もすごく満たされた気分になった。 「珊瑚にバレたら、殺される」 「大丈夫だよ。ちょっとだけだから」  客と共用で使うトイレに、二人で入る。  開店まであとほんの少ししかない。  俺は例のごとく、エプロンをたくし上げ、制服の黒のスラックスを下ろす。  トイレのタンクに両手をかけ、那緒に向かって尻を突き出した。

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