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第11話
ゼミの集まり、テスト、プレゼン資料作り。
昨今の大学は多忙を極めるようで、バイトでこそ顔を合わせるにしろ、この頃二人でゆっくり過ごすことが少ない。
那緒いわく、あとちょっとの辛抱らしいが。
性欲と愛情不足を持て余したアラサーは、なんだか落ち着かない。
誠実な那緒のことだ。
浮気はないと信じているものの、あの性格にあのルックスは贔屓目に見てもモテるだろう。
そう思うと、全く不安がないと言えば嘘だった。
もちろん俺だって頑張っている。
シフト被った日は、オープン前にトイレで絶対セックスしてるし。
昨日だって、ちんこしゃぶってってお願いされたから張り切ってやった。
「嫌われては、ないはず」
今日も仕事終わりの映画鑑賞をやんわり断られた俺は、足りない頭をひねる。
もしかすると、いつも代わり映えなく映画映画って、イマドキの男子大学には低刺激なのか。
息も白く濁る、深夜の帰り道。
とぼとぼと一人安アパートを目指す。
「刺激的な…デート?」
そこまで口にしてナイナイナイナイ、と慌てて首を振った。
デートだなんておこがましい。
俺と外を出歩いたって、那緒が恥をかくだけだ。
やはりここは、無難に家でできることを。
「遅かったな、鷗」
一人言をぶつぶつと呟いていたせいで、全然気がつかなかった。
軋む階段の先で、会いたくない人ランキングワーストトップ、叔父の麻生和志が仁王立ちしていた。
「バ、バイトでした…」
「バイト?おまえ28にもなって、まだ定職にも就かずふらふらしてるのか?」
ヤンキー丸出しだった父とは似ても似つかない弟。
冷徹で厳しく、躾、躾と未だに俺を束縛する。
「相変わらずみすぼらしい男だな」
和志は中指でシルバーフレームのメガネを押し上げると、舌打ちを交えて言い放った。
ポケットを探り、急いで部屋の鍵を開ける。
私は待たされるのと、頭の悪い人間は嫌いだ。
引き取られてから毎日のように聞かされていた、和志の決まり文句を思い出していた。
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