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02
グワッシャーン、と店内に大きな音が鳴り響いた。
ガラステーブルが割れ、ワインがぶち撒けられる。
周囲の客から悲鳴が上がった。
「松井さん、大丈夫ですか?」
琥珀が慌てて飛び出して来た。
珊瑚もモップやタオルを持って駆け寄って来る。
「鷗、なにやってんだ!」
物凄い形相と、声。
オネエ口調が消え去って、本気怒りモード発生中の珊瑚にモップを投げつけられる。
「ぐ、痛ッ」
ガラスの破片で切ったらしい。
左手から血がポタポタと滴っている。
「松井さん、申し訳ございません。何ぼんやりしてんだ鷗ッ!松井さんに謝罪して片付けろ」
俺はおたおたとモップを拾い上げる。
手を切った痛みより、今は恐怖心が上回った。
「すみ、すみませぐふぅッ!?」
立ち上がり頭を下げる俺の腹を珊瑚の膝が捉える。
思い切り鳩尾に入ったせいで、俺は堪えきれずに嘔吐した。
「ぐえ、うえ、ずみ、ずみまぜんッ」
無理やり引き起こされ、もう一発。
シャツのボタンは弾け、俺は床へ沈み込んだ。
「兄ちゃん、他のお客さんもいるから」
「珊瑚くん、僕は大丈夫だから」
二人に宥められても治りつかない珊瑚の怒り。
珊瑚は床でのたうつ俺の頭を踏みつけた。
「やりすぎだって、ちょっと」
顔面蒼白な琥珀が珊瑚の腕にしがみつく。
松井はにやにやと、不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。
「俺の、俺と琥珀の大事な店、無茶苦茶にすんなよ」
「兄ちゃん、大丈夫だって!テーブル壊れただけだ」
「おまえ、俺らがどんな思いで二人で踏ん張って来たか知らねえくせに。いつも自分ばっか不幸ぶって」
「兄ちゃん!」
「見た目弱そうなヤツはいいよなあッ!誰彼構わず甘えて媚び売って。俺はおまえみたいなクズ野郎に、一番虫唾が走んだよ!」
珊瑚はそう言うと、俺から足を退け、割れた破片へ手を伸ばした。
琥珀は無言のまま、モップをかける。
他の客席から死角になっていたとはいえ、騒ぎは聞こえているだろう。
松井がくすくすと笑っていた。
この男は、いったい何がしたいんだ。
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