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第15話※
「いやあ、大惨事だったね。あの単細胞ゴリラくん、理由も聞かずに鷗くんのせいだって決めつけて」
かわいそうに、と包帯の巻かれた手を握られる。
店から文字通り追い出された俺を待っていたのは、含み笑いのムカつく顔だった。
「やっぱり頭のないやつは、何やってもダメだな。重形さんも何を思って入れ込んでるのかわからないけど、あの店はたぶんダメだろうね」
顔面の腫れた俺の肩を抱き、松井が呟く。
冷たい夜風の下、俺は抗う気力もなく、松井に誘われるまま歩みを進めた。
「大丈夫、大丈夫。鷗くんも満身創痍だろうし、今日はみっちり丁寧に優しくするから」
松井は慣れた手付きでタクシーを拾うと、俺を押し込む形で車に乗った。
「怖がらなくてもいい。キミはとんでもない疫病神だけど、僕なら大丈夫。僕は不幸にならないよ」
窓の外を流れる外灯。
唇を噛み締める珊瑚の横顔。
悪態を忘れた琥珀の背中。
俺は一度だって、二人のことを考えたことがあるだろうか。
不幸の淵に立った二人を、俺は危うく地獄の底へ叩き落とすところだったのかも知れない。
松井に強く抱き寄せられる。
疲れた。
凄く眠い。
生きた人間の暖かさが、俺に染み込む。
「生まれて来た意味があるのか、おまえに」
誰に言われた言葉だろう。
ふと、そんなセリフが脳裏をよぎる。
父の暴力の最中?
母のポルノ写真を撮られる最中?
施設の子どもたちに体を好き勝手されていた最中?
祖父の躾の最中?
和志の性器を受け入れた最中?
珊瑚に犯される最中?
琥珀に罵られる最中?
重形たちに輪姦 わされた最中?
「あ、わかった」
どうしたの、と松井が覗き込む。
閉じた瞳から、涙がつたった。
全部だ。
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