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マキ家1

☆ 「マキぃぃいい!!」  オレは今、居候先の男、マキに激しいイジメを受けている。 「イヒッ、イヒヒッ、あーヤベェクッソウケる!!」 「あああああ死ぬうううう」 「早くパンツ脱げよ!ブフッ!」  風呂上りの事だ。  マキが、少し前に買ったビデオカメラを持って脱衣所にやって来た。買ってから使用しているのは主にオレで、ヒィヒィ言っているマキばかり撮っているから、珍しいこともあるなぁと思って、向けられたカメラの前で自慢の肉体を披露してやった。  オレは身体と自分本位のセックスには自信がある。  そんで、用意しておいたパンツを履いたら、ちんこに激痛が走った。  こう、なんとも言えないスーッとした爽快感があったと思ったら、次の瞬間には激痛になった。 「はーヤベェ……マジでウケる」  パンツを脱ぎ捨て、今さっき浴びたばかりのシャワーをまた浴びる。 「うひゃああああおおう!?」  さらなる激痛。 「ブフッ、ユキ…それ逆効果だから…ふふ、ブフッ」 「お前っ、オレのパンツに何した!?」 「スーッとするヤツ塗っといた」  とんでもねぇことしやがる!!  マキは頭がおかしい。  出会ったのはいつも行くパチ屋だった。大抵毎日居たから、話したこともないのに勝手に親近感を覚えていた。  第一印象は、一言で言えばこの人本当に生きてる?だった。  いつも目は虚で、目の前の台すら見えてないんじゃないかと思った。  オレはその頃住んでいた家を追い出され、公園のベンチに寝泊りし、近所の銭湯に通うクソニートで、明日にでも死んだ方がいいんじゃね?と思っていたのにパチ屋には通っていた。  それで、最期に少しくらいいい思いしても良いよな?という、下心丸出しで声をかけたのがマキだ。  オレの性癖は自分でいうのもアレだけど歪んでる。  相手の反応なんか気にせず、いつも好き勝手して捨てられる。男女問わず。  今回追い出されたのもそのせいだ。ま、一年ヒモ生活が続いたんだから、今回はけっこう保った方だといえる。  そんなオレは、この死んだような目をしたマキをめちゃくちゃにしてやりたいと思った。オレがどんだけ頑張っても、コイツの目にはなんも映らないんじゃないかと思って、試してみたくなった。  んで声をかけた。  結果、マキはド変態だった。  どれだけ酷い事をしても、「イヤだ」と言いながら見せるその表情が堪らない。  痛くしても、執念くしても、意地悪しても、ヘラヘラと笑ってヨガる表情が堪らなくエロい。  普段は超無気力クソニートのクセに、セックスの時だけはちゃんと生きてる。  完全にハマった。ハマってしまった。  ハマってしまうと、普段の無気力さもなんだか愛おしい。  中でもオレの心を打ったのは、オカマバーの手伝いに行った時だ。  客からバカほど金を毟り取り、不特定多数とどエロいキスをしておきながら、やっぱりその目には何も映っていなかった。  マキはオレとする時にだけ生き返る。  そんな優越感が、ドツボだったわけだ。  そんな可愛いオレのマキは、最近オレに当たりがキツい。  普通パンツにメンソール塗る?  おんなじ男として絶対にやっちゃダメだろ!! 「あー面白かった」  カメラを止めたマキが言った。面白かった、というわりに、やっぱりその目は冷たい。サイコパスなのかなぁ? 「マキ…お前ワザとそうやってオレを煽って、そんなにめちゃくちゃにされたいのか?」 「え?」  マキがキョトンとした顔でオレを見た。  腕を掴む。マキは慌てて逃げようと暴れた。だからオレは、顔面を一発ブン殴ってやった。 「ッイッテぇな!ボコスカ殴んじゃねぇよ!」 「メンソールは犯罪だ!!」 「んなわけねぇよ!!オメェのが犯罪だ!!」  マキは必ず言い返してくる。それもものすごく興奮する。黙らせてやろうと思うからだ。 「オラッ、反省しなさい!!」 「うわっ」  柔らかい黒い髪の毛を掴んで浴槽の淵に追いやる。例の如くパンイチのマキのパンツを後ろからスルッと脱がし、ケツをバシバシと叩いた。 「イッタァッ!」  浴槽の淵に手をついて、マキが叫んだ。白い皮膚が真っ赤だ。 「オレのちんこの気持ちが分かったかこの野郎!」 「俺はお前のちんこじゃないからわかんねぇよ!」  それもそうだな。 「だったらオレのちんこの気持ち味わえ!」  脱衣所に落ちていたオレのメンソールパンツを、足の指でキャッチ。それを持ってマキのちんこを掴んだ。 「ギャアアアッ!!!!」 「これでわかったかクソ!」 「イヒッ、やぁぁ…痛い……んふ」  先の割れ目をグリグリして、これでもかとメンソールを味合わせてやった。のに、マキは痛がるのと同時に喘ぎ出した。 「んぁ……はぁ、やば…死にそ……」  コイツヤバくね?普通は痛いよな?  こういうところが最高にヤバい。  一体コイツに何があったんだ?と、想像を膨らませてしまう。  過去に付き合った人がヤバいヤツだったんかな?  それかものすごい性的暴力を受けていたとか?  なんにしろ、オレはソイツに感謝する。その誰とも知らん過去の人間のお陰で、オレは今最高に楽しい。 「マキ」 「はぁ……なに?」 「入れて良い?」 「いや、半分入ってんじゃん」  振り返ったマキが、お前頭大丈夫か?みたいな顔をしていた。 「マジだった」 「ウゼェ…ワザとだろ」 「正しくは半分じゃなくて三分の一な」 「どーでもいいわ!!」  マキの細い腰をがっしり掴む。勢いをつけて一気に奥へ押し込んだ。 「ッッッ!!」  背をそらしてビクビク震える身体がイヤらしい。最高。 「ああっ、ヤバっ……んやぁ、あっ、あぁ……」  見なくても、マキが今どんな顔をしているのかわかる。涙と唾液をダラダラ垂らしている筈だ。  それを思い浮かべるだけで、オレはもう限界だ。 「イッていいぜ」 「うる、せぇ…はぁ…お前がイきたい…だけだろ」  生意気な言葉に、余計に意地悪してやりたくなる。  背骨に沿って舌を這わすと、オレを締め付ける力が強くなった。 「ぁぁ……ん、それ、ヤバい……」  マキは皮膚の薄い所がとにかく弱い。脇腹や首筋、あとヘソなんかを噛むと、それだけでイク時もある。  そろそろお互いに限界だなと判断し、オレはマキの首に思いっきり噛み付いた。同時にマキのそれを左手で刺激して、思いっきり腰を打ち付ける。  一番奥に、オレの出したものが届くように。 「いひゃっぁ……ぁあ……」 「はぁ……ふ……」  浴槽の中に、マキの出したものが飛び散る。噛んだ首筋から血が滲み、それがまたとてもエロい。  荒い息を吐き、少し落ち着いた頃。 「あのさぁ…なんでそんな噛むの?」  手足をガクガク震わせながら、マキが言った。 「えー、好きそうだから?」 「うぐ、それは否定できねぇ」  ちょっと恥ずかしそうな声が可愛い。  その後、オレたちは仲良くシャワーを浴びで浴室を出た。 「死ぬかと思った」  マキが床に座って、タバコをふかしながら言う。オレが殴った左の唇の端が切れて、未だに血が滲んでいるのも気にしないようだ。 「元はと言えばマキがやったんだろ。自業自得だ」 「まあ、そうだけど」  反省の色が全く見えない。 「つか、最近そういうイタズラ多くね?」  パンツメンソールだけじゃない。歯磨き粉を洗顔に変えられたり、シュークリームにワサビが入っていたり、この一週間ほど、オレはリアクション芸人並みに身体をはっている。  ベッドにザリガニがいた時は、さすがのオレもキレた。ちんこ括り付けてカライキ連発させてやったのに、まだ懲りないらしい。  つかこの為にザリガニを捕まえるマキを想像するとめちゃくちゃ面白い。 「だって、お前いつまでいるんだよ?」 「えぇぇえ?」 「いやだから、いつまでここにいるつもりだ?見ての通りめちゃくちゃ狭いワンルームだぜ?」  ということは、マキはオレに出ていって欲しくてイタズラをしていたということか。 「ちゃんと働いてる」 「はいはいちんこはな」 「オレが出て行ったら寂しくね?」 「ちんこは別にお前だけに付いてるわけじゃねぇし」 「そういうことじゃなくてさ」  てっきりオレは、マキに好かれていると思っていた。いや、好かれているのはマジだろう。  オレは昔からそういうのに聡い。自分に向けられた好意はわかる。 「はっきり言うと、お前の分まで金出す余裕はない」 「えぇえ?」 「だから、お前も知っての通り俺もニートなの。働いてないの!!」  ドン、と、ドヤ顔で言うあたり、オレたちは間違いなくクズだ。 「じゃああのオカマバーで…」 「あれはあくまでも臨時!」 「というか、今までどうやって生活してたんだよ?」  マキは家こそボロいアパートだが、金に困っているようには思えない。酒もタバコも、ギャンブルだって人並み以上に嗜んでいる。 「実家が会社経営してんの」 「うわぁ、ありきたりな……」 「と、思うじゃん」  マキはタバコを灰皿に押しつけて、もう一本咥えて火を付けた。 「俺実質絶縁状態なわけ。仕送りもクソもないぜ。今だって親父の遺産だけで生きてんの。無くなったら終わり。死ぬしかねぇ」  オレたちみたいなクソニートは、現状の打開よりいざとなったら死ねばいいんじゃね?という、短絡的な思考のヤツが多い。  マキもそのタイプだ。でもそれは諦めじゃない。むしろオレたちの未来は明るい。世間のしがらみもなく、自身の決定によって全てを決められるから。 「ふーん。で、その遺産って、あとどんくらいあんの?」 「それ聞いてどうすんの?」 「お前を殺してオレも死ぬ!!」 「バカじゃね?そこはお前を殺して金を奪う!じゃねぇの」  あはは、と笑うマキは、多分本当に殺して金を奪っても怒らなさそうだ。  マキが自分の咥えたタバコの煙を目で追う。笑顔は瞬時に消え、そこにはまたいつもの虚な瞳が現れる。 「まー、俺が人生に疲れて死ぬまでには使い切れるくらいかなぁ」 「そりゃあまた、曖昧な」 「曖昧な方が、人生は楽しい」  そんな目をしてよく言うぜ。 「とりあえずさ、なんか食いに行こうぜ。お前の金で」 「俺の話聞いてた?」 「え?なんか言った?つかオレ今めっちゃ肉が食いたい」 「しゃあねぇなあもう。んじゃあ、焼肉でも行くか…結局俺ら、焼肉行ってねぇしな」  パチ屋での事を言っているのだとわかる。そういえば勝ったら焼肉食って帰ろうとか言ってた。 「ほら、服着ろよ」  咥えタバコで押し入れを開けたマキが適当に選んだ服を着て、オレたちはアパートを出た。  ちょうど夕陽が沈む頃だった。  オレら久しく、朝陽を見てないなぁ。

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