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マキ家2

☆  マキの実家は、普通に生きていたら知ってるかな?というようなそれなりに大きな会社を経営しているそうだ。  ちなみにオレは知らなかった。まあ、世間から一つ二つ浮いたところに生きているから当然だ。 「俺は四兄弟の三番目で、八歳上の兄、六歳上の姉、四歳下の弟がいる。オヤジが死んだのは二十歳の時で、同時に絶縁された」  近所の繁華街に唯一ある焼肉屋。やけに賑やかな店内。そういや今日は週末だった。家族連れや会社員一行、金の無さそうな若者のグループが、酒と肉に夢中になっている。 「でも遺産は貰えたんだ?」 「そ。こんだけやるからもう関わらないでくれ!ってさ。手切金って言うと笑えるけど、そんな感じ」  マキは既に三杯目の生ビールを半分ほど飲み干し、ジョッキについた水滴を指で弾いていた。  オレは可愛いマキのためにせっせと肉を焼く。通路を挟んで隣の、大学生グループがものすごくうるさい。 「何したんだ?」  家族から追い出されるって、相当じゃないか?  もしやなんかとんでもねぇ闇を抱えてんのか?  それならそれで、またオレは勝手に興奮するんだが。 「最初は中学の頃、家庭教師とヤッてんのがバレたんだ」 「うひゃう!理想のシチュエーションじゃん」 「オメェはマジで性癖歪んでんな!!」  マキが咥えていた火のついたタバコを投げてきた。 「アッツ!?」  拾って残りを吸います。勿体ねぇ。 「ちなみに男?女?」 「どっちも」 「おうふっ!!」 「二回にわけて、バレた」 「そりゃあ追い出したくもなる」 「間違いない」  中学の頃か。  ……きっとさぞ可愛かったに違いない。生意気なガキだったんだろうな、と想像を膨らませる。 「その次は?」 「高校生の頃、家の金で毎日遊び歩いてたら、貸し切りのバーの個室にアニキが突入してきた」 「ちなみに、」 「もちろん複数で真っ最中だった」 「ぶっ飛んでんなぁ」  オレの脳内に、中学の頃より少し大人びた、でも今より幼さの残るマキの、複数乱行プレイ中の映像が浮かび上がる。もちろん、完全なる妄想だ。  あ、ヤバ、肉が焦げた!! 「それだけ?」 「大学生の頃にもっと悪化した。今度はアニキとねぇちゃん二人に捕まって、しばらく実家に監禁されたりしてる間に、オヤジが病気で死んだ」 「クズ」 「うるせぇ」  マキは特に顔色も変えず、ただ淡々と語った。本当に何も感じていないかのように。 「アニキはオヤジの後継いで会社やって、ねぇちゃんは結婚して家出てたし、弟はまだ高校生だったけど、全員が俺を追い出すことに賛成した。甘かったのはオヤジだけで、そのオヤジが死んだのと同時に少しの遺産とともにポイって」 「母親は?」 「弟が生まれてすぐ死んだ」  マキのどこか壊れているところは、家庭環境のせいなのか、もともとそういう性格なのか、判断ができなかった。  ただこの話を聞いて、その上で、じゃあ家族とか気にせずマキを好きにしてもいいんだ、と思ったオレは、マキと同じくらい壊れている。 「オレはかわいそうなお前が好きだよ」 「だから歪んでんだよ、お前」  と、呆れつつ言うが、少し顔を赤くしているところがまたたまらなく可愛い。  酒のせいかもしれないけど。 「お前もオレのこと好きなくせに」 「顔とちんこだけな」 「素直じゃないところも可愛いな」 「黙って俺のために肉を焼け!!!!」  ダアアンっと空になったジョッキを置いて、マキがキレた。オレは黙ってせっせと肉の面倒をみる。  オレはマキのために四杯目の生ビールを注文し、皿のタレを足し、良い感じに焼けた肉を取り分け、時々となりのうるさい大学生を睨んだ。  二時間程すると、マキは酔っ払ったのか、トロンとした表情でジョッキから手を離した。  実に七杯目が空になったところだった。 「……といれ」  ポツリと小さく呟いて、マキがヨロヨロと席を立つ。 「手伝おうか?」 「支えてくれんの?」  マキがニヤリとしながら、自分の下腹部を指さした。 「あははっ、冗談だよ」  と、さっさと店の奥のトイレへ向かう。全然冗談じゃなくてもいいのに。今から追いかけて行ってイジメてやろうかと思った。  が、隣の大学生グループのうち(五人いた)、二人が席を立ってトイレの方へ向かう。  流石にオレも行っちゃギュウギュウになるなぁ、なんて思いながら、マキのタバコを一本拝借する。ちなみに返す気はない。実質窃盗だ。  焦げ付いた網をトングで突いて暇を持て余す。  マキの話を思い返し、オレはまた勝手な妄想を始める。  マキは如何にもな不真面目キャラだが、家族の話を聞く限り、兄弟達は真面目なのかもしれない。きっと窮屈だったのだろう。  その反動で、あんなに歪んでしまったのだろう。  ああ可愛い。最高。オレはマキなら、焼肉にして食べることもできそう。  ってかトイレ長くね? 「ごめん、遅くなった」  うんこか?と言いそうになって、その声が自分にかけられたものじゃないことに気付く。  隣の大学生グループだった。ただでさえうるさいのに、さらにひとり増えたようだ。全く、これくらいの歳の奴らは、ひとりいるとあと何人か湧いてくるから嫌いだ。 「おっ!おっせぇよ!」 「また教授の手伝いか?大変だなぁお前も」 「つかはよ座れよ、マキ」  マキ?そっちにもマキがいるのか?  いやでも、マキなんてどこにでもいるか。  ……オレのマキほど可愛い奴はいないけどな。 「何食べる?」 「つか飲めよ」 「僕はあんまりお酒強くないって知ってるだろ」  その隣のマキくんは、酒を勧める友達を苦笑いであしらっていた。 「でもこの間割と飲んでたろ?」 「そうだけど……本当は、酒癖の悪い兄がいて、そのせいであまりお酒が好きじゃないんだ」  なんかごめん、という雰囲気になった。隣のマキくんは、その兄がいかにひどい奴かを語り始めた。 「兄はさぁ、お酒が入ると鬼のように他人に絡んでくんの。しかも、所構わず、男女問わず、誰にでも手を出そうとするんだ…僕も何回キスされたか……」 「お前のアニキ、相当破天荒なんだなぁ……」  同情するよ、と、大学生たちがしんみりとする。  オレはその話を聞きながら、うちのマキもそんなんだなぁと、共感を持った。マキという奴は、みんな変態なんか?……隣のマキくんは、その限りでは無さそうだが。 「破天荒っていうより、無鉄砲の方が合ってるよ。親譲りの無鉄砲で、てやつ。父親そっくり。そんでもって損ばかりしてる。それにかなり変わってる」  隣のマキくんは、若いだろうに古風なことを言った。頭がいいんだろうなぁ、と思った。 「へぇ、マキの家に変わってる人がいるんだ?上のお兄さんとか、ものすごく真面目そうなのに」 「ダントツで頭がおかしいのはその兄だけだよ。そういえば、兄は高校に上がってすぐ、ピアスを開けたんだ。最初は左右ひとつずつ。ひと月後には倍になった」 「え、お前んちそういうのダメなんじゃないの?」 「ダメだよ?だから、僕は兄は頭がおかしいんだと思ってた。それを裏付けるように、兄の耳にはさらにピアスが増えた。驚いたことに、増えたのは倍じゃなくて乗だった」  ものすごいオチぶっこむな!!思わずトングを取り落としそうになったわ!! 「今時そんなに開けてる人も珍しいなぁ」 「だよね。僕もそう思う」  うちのマキの耳も穴だらけだ。やっぱりマキという名前は、変なやつが多いようだ。 「そのお兄さん、今どうしてんの?」 「多分生きてはいるよ。絶縁されて、離れ離れになっちゃったけど」 「絶縁って…やっぱお前んちこえぇわ」  ほんとそれな。マキ家はどこもかしこも子どもを絶縁するらしい。 「そういえばこの辺に住んでると思うんだけど、詳しい住所を誰も教えてくれないから、もうずっと会ってないなぁ」  この辺に住んでるマキ。  もしかして、ガチでうちのマキなんじゃないか?  そう思うと、隣のマキくんの顔が気になった。  酒癖が悪いのも、ピアスが多いのも、家族に絶縁されてんのも、うちのマキと同じだ。  そっと顔を上げて、隣のマキくんへ視線を向ける。柔らかい黒い髪。毛先が少し癖毛で、色白。全体的に華奢。  隣のマキくんは、オレが脳内で妄想した中高生時代のマキそのものだった。  違うのは、大きく明るい瞳をしていて、いかにも人懐こそうなところだけだろうか。 「マキ弟か!!」  思わず叫ぶと、大学生4人が驚いてこっちを見た。 「えっ、と…兄…牧修哉の知り合い、ですか?」 「ああ、そういやあいつ修哉っていったか」  居候しておいて、つい名前を忘れてしまう。オレの中では、マキはマキだ。 「そー、知り合いというか、セフレ?」 「……え」  大学生達がキョトンとした。 「間違えた。オトモダチデス」  健全な皆様の前で、しかも弟に向かって、セフレと言ってはいけなかった。  微妙な顔をする大学生達。マキ弟だけは、立ち直りが早かった。 「兄は今どこに…?」 「トイレ」 「え?」 「奥のトイレだよ!つか長ぇよ!?ガチでうんこか?漏らしてんじゃねぇだろうなぁもう……」  オレの見てる前でヤレよ、どうせなら。  おっと、想像したら勃ちそうだ。 「そういや、蓮と大地もトイレだよな?」 「この店ってトイレひとつじゃなかった?」  その瞬間、オレはマキが置いてったスマホを持って奥のトイレへ走った。オレは自分のスマホを持ってないことを、この時心底悔いた。というか、ビデオを持って来ればよかったと思った。  トイレは男女に分かれた扉が左右にあった。男子トイレに直行する。無用心なのかなんなのか、鍵は開いたままで、中は最近の流行っぽく、広くお洒落な内装だった。  手を洗うところと、大用の個室がある。その個室の中から、よーく聞き知ったエロい声が聞こえてきた。 「ふぁ…あ、むふ……ん、んん」  ナイス!と思った。大学生の一人が立ちバックで思いっきり腰を振っていた。もうひとりは、マキの口にイチモツを突っ込んでいた。  このオレでも、エゲツないなあと思うくらいに咽頭の奥を責め立てている。  ピロン、とスマホの動画撮影を開始した音が、二つ。  オレはもちろん、マキが大学生をめちゃくちゃ誘ってそういう感じになってるだろうなと思った。だから撮っておいて後で一緒に見ようと思った。オレ達はそんくらい変態だ。自覚はある。  でも、だ。 「蓮、大地、もっとやれ!」  ギョッとしたのは、オレだけじゃない。今まさに絶頂を迎えようとしていた大学生二人が、とっさにこっちを見た。 「えっ、マ、マキ?」 「ちょ、なんで撮ってんの!?」 「気にしないで。それより、その人もっと酷くしないと喜ばないよ?」  蓮と大地は、マキ弟の言葉に戸惑った顔をしながらも、言われたようにより一層激しく動き出す。 「ホラァ!ケツ叩いてやれよ!」 「わ、わかった!」  バシッと可愛らしい控えめな音がした。 「もっとやれ!!テメェらの本気はそんなもんか!?あぁ!?」 「わかった!!」  またもバシィィンと、今度は鋭い音がした。 「ンヒィ!?…んっ、むぁ……」  マキがビクビクと身体を震わせる。軽くイッたな、とオレは冷静にスマホを構えながら思った。 「大地!イくときはちゃんと喉の奥に出せよ!!」 「あ、おう!!」 「ちゃんと飲み込めよ修哉ァ!!」 「んんッ」  お兄ちゃん呼び捨てかよ…  しばらく変な時間が流れた。マキ弟が「オラァ!」と、まるで部活中みたいな声を上げ、蓮と大地が必死になって答える。それに、マキが苦しそうな喘ぎ声を漏らす。  オレは今何を見せられてんだ? 「イッケェェエ!!」 「お、おう!」 「っ!!」  マキ弟の掛け声に合わせて、蓮と大地がブルッと震えた。同時にマキもビクビクと身体を震わせ、白い体液を滴らせる。 「ゲフッ、ゴホッ…オェ……」  マキがヘナッと地べたに膝と両手をついて、必死に吐き気を堪えている。ところまで撮って、カメラをしまう。 「はぁ、はぁ…ナニコレ?どういう状況?」  今までヨガっていたヤツが、よくもまあこんなにすぐに切り替えられるよな、というくらいに、マキがスンとすました顔で言った。 「兄ちゃん久しぶり!元気だね、いつも通り」 「……お前は相変わらずクソみたいな趣味してるな、悠哉(ゆうや)」 「だって兄ちゃん最高なんだもん」  ニッコリ笑う悠哉。手には未だ撮影中のスマホを構えている。 「ね、お尻見せてよ。いつもやってたよね、その中の自分で出すヤツ」 「アホか!!」 「チェッ、兄ちゃんのケチ」  唇を尖らせて、悠哉はスマホをポケットにしまった。  断言しよう。  この兄弟……ヤベェ。

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