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フリーダムウィーク1
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「あんたまた変な男に気に入られちゃったのねぇ……」
心底同情…じゃねぇな。若干羨ましそうに、エリカちゃんが言った。
「そーなんだよ…俺は死ぬまでそういう運命なんだな、きっと」
「そりゃアンタがクソビッチなんだから仕方ないじゃない」
「まあそうなんだけど」
開店前のオカマの聖地で、俺はエリカちゃんにグチっていた。今日は仕事じゃなくて普通に遊びに来ていて、エリカちゃんは俺のグチを、餌を与えられた鯉みたいに全部飲み込んでくれる。時々毒を吐かれるけど。
「アンタ昔からホント変わらないわねぇ。ウチらオカマの敵よ!イイ男みんなアンタに取られちゃうんだから!!」
「っても、俺に寄ってくる男なんて全員クソだぜ?むしろ俺に感謝して欲しいくらいだ」
「まー腹の立つガキね!!」
という割に、エリカちゃんはあまりイヤな顔をしていない。
それもそうか。
なんせ俺に寄ってくる男の趣味を、エリカちゃんはよく知っている。
「最初が不味かったのよね、結局」
はあ、とエリカちゃんがため息を吐いた。
エリカちゃんは、もともと俺の実家で家政夫をしていた。母親のいない四兄弟の面倒を見るために雇われたのだが、俺の親父はだいぶ変な人で、普通女を雇うだろうところにこのオカマがやってきた。
当時はそれなりにイケメンだったのに、今では見る影もない。人体の経年劣化とは、できれば回避したいものだと思う。
もちろんその頃は普通の男の姿をしていたが、オヤジが死んだ後、オカマバーへ転職した。
そんなエリカちゃんは、俺らのことをよく知っている。
「まだ覚えてるよ。オヤジの同級生とかいう企業家のおっさんだろ」
「そうよ…今でもイケメンかしら」
「少なくともエリカちゃんよりは変わりないだろうな」
「ちょっとそれどういう意味よ!?」
「他意はない」
約十年でここまで人間が変わるなんてなぁ。
まあ、エリカちゃんにもともとオネエ要素があったのは気付いていたけど。
「アンタがまだ小学生のときよね」
エリカちゃんは、二つのグラスにウィスキーを注ぎ、ひとつを俺に渡してくれた。もうひとつを自分で水のように煽る。
「もうそんな昔なんだな」
「あん時は、このアタシでもどうしようかと思ったわ」
どうしよう、じゃなくて、羨ましいの間違いじゃないか?と思わなくもない。
というのも、小学校低学年の頃、そのおっさんはまだ幼気なガキの俺に、「男の子の穴は特別なんだよ」と言って、ケツをいじり倒したのだ。
高学年に上がると、今度はオモチャを使い出し、中学の入学式の晩、とうとう俺のそこに自分のアレを突っ込んだ。それを、エリカちゃんに目撃された。
俺がこうなったのは、そういう大人が近くにいたことも大きな要因のひとつだ。
「まさかあんなに仕込まれてると思わないじゃない」
「めでたくクソビッチが誕生したわけだ」
「ホント、アンタは魔性よ」
うへぇ。その表現はマジでキモい。
ただまあ、そのおっさんのおかげで、俺は今まで相手に困った事はない。色々学ばせてもらったなぁ、なんて思うくらいだ。
そんな俺は、もともとそういう素質があったんだと思う。こうなった要因の二つめは、結局俺自身がクソビッチだったってわけだ。
「一番驚いたのはあの医大生くんね」
「イケメンだったけど、ちんこは小さかった」
「いい加減顔とアソコの大きさで評価するのはやめなさい!!」
黙って口を噤む。エリカちゃんが、はぁ、と艶かしいため息を吐いた。
「間違いなく、アンタの性癖歪めたのはあの彼ね」
「ヤベェ…思い出したら勃ってきた……」
「いやぁね!?こんなところで出さないでよ!!」
「そこまで節操なしじゃねぇ!!」
とは言え。その、高校一年の頃に付き合っていた(俺はそう思ってた)医大生のイケメンは、アブノーマルDV男だった。
口癖は、「人の身体には、いくつもの性感帯があるんだぜ」だった。今思うとキモいな。
「そいつのおかげで、俺は確実に新しい扉を開けた……」
「しみじみいわないでよ!!アタシらオカマだって、あんなハードなプレイさせないわよ」
「だから需要ないんじゃね?」
「うるさいわね!!アタシはもっと、気持ちのあるセックスがいいのよ!!」
ムリだろ……とは、口が裂けても言えない。
とまあ、そんなわけで、俺は気持ちがいいことには貪欲だ。
他人からドン引きされようとも、俺が良ければそれでいいし、顔とちんこがデカくて、少しの優しさを感じる事ができたら簡単に好きなんだと勘違いできる。
同じくらい簡単に、サヨウナラも言える。
「んでまた、今回の彼もそうとうイケメンで、そうとうぶっ飛んでるわね」
エリカちゃんが肩を竦めた。俺も同じようにして、それからグラスの酒を飲み干す。
昨日の焼肉屋での事をエリカちゃんに全て話した。大学生を食ったところは、省略しなさいと言われた。羨ましかったんだと思う。
「それで、『フリーダムウィーク』ってわけね」
「そ。ユキ公認NTR週間」
まあ、付き合ってるわけじゃあないんだけど。『フリーダムウィーク』とかアホな事を言い出したのはユキだ。
「あんたそれでいいの?」
「何が?」
心配そうな顔をするエリカちゃんは、小さい頃からそばにいた家政夫のお兄さんの時のままだ。
「だってあんた、ユキちゃんが好きなんじゃないの?」
「んー、ユキの事は好きだけど、俺は顔と、」
「はいはいちんこね、わかってるわよアンタのクズさは」
聞いたアタシがバカだったわ、と言って、エリカちゃんはカウンターを出た。そろそろ開店時間だ。
「んじゃあまた来るな」
「話聞かせなさいよ!」
心配しながらも、ゲスい話が大好物なエリカちゃんがそう言って見送ってくれた。
この後、ユキと駅前で待ち合わせしている。
同じ家に住んでるのに待ち合わせって変な感じだな、と思いながら、俺は約束通り駅を目指して歩き出した。
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