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フリーダムウィーク3
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「マジでアイツ頭おかしいのかもしれない」
本日はエリカちゃんのお手伝いだ。俺は藤間の隣で酒を飲みながらユキのグチを吐き出した。
昨日の出来事は、結局ユキの嫉妬を引き出すに至らなかった。
帰ってから速攻で寝た俺は、ちゃんと話を聞いてはいないが、ユキの態度はいつもと変わらなかった。
「その彼は、本当に嫉妬が知りたいのかな」
「え?」
藤間が薄い笑みを浮かべて、ウィスキーのグラスを煽る。
「もしかしたら、君の気持ちを確かめたいんじゃないかな?」
「俺の?」
「そう。やっぱり自分が一番だと言ってくれるのか、試してるんじゃない?」
そうなのだろうか。
だとしても、一体何が変わると言うのだろう。
もし俺がユキだけとしたいと言ったら、ユキはどうするのだろう?
いや。そもそもそんなのありえない。俺はその時目の前にいて、顔が良くてちんこがデカくて、それとセックス以外で少し優しくしてもらえるのなら、誰だって構わないんだから。
「ユキはそんなタイプじゃないと思うけど」
嫉妬がどうとか言っているが、それは単に、好きな物を他人と共有したいだけなんじゃないか、と思う。
ハマったマンガを友達に貸して共有したいとか、推しのアイドルを布教したいだとか、そういうアレだ。
あと、自分のオモチャを人に貸して、どこまでなら触らせてもいいか見定めている。当然オモチャ自体は喋らないから、一方的に観察して終わり。返してもらったらまた同じように自分も遊ぶ。それだけだ。
要するにただの変態だ。
「わからないよ?その彼は子どものまま大きくなってしまって、君に出会って知った感情に戸惑っているのかもしれない。だったら、君はその芽生えた感情にどうこたえてあげるのか、考えておいた方がいいんじゃないかな」
藤間は大人だ。このオカマバーに出入りし、あまつさえボトルキープまでしていて、俺に金を握らせて粘着質なディープキスをするのが趣味だが、外ではしっかり働いていて、自分で自分を養うことのできる大人だ。
そんな大人の藤間が、優しげに、諭すように言うのだから、藤間の言う通り俺は考えておいた方がいいのかもしれない。
俺の脳裏に今までヤッたいく人もの男の顔と下腹部のモノがよぎっていく。
あと数々のアブノーマルなプレイも。
ユキはその誰よりも相性が良いと思う。強引で自分ヨガリなセックスも嫌いじゃない。気に入らない事があると容赦ないのも、俺が気絶して目を覚ましてもまだ続行中だったりするのも、控えめに言って最高だ。
ヤベッ、考えてたら勃ってきた……
この先ユキが飽きるまでアイツだけとするのも、悪くないかもしれない。
「なるほど。そういうプレイだと思えば良いのか!!」
「え?」
隣で藤間が、持ち上げたグラスを途中で止めた。
「だから、そういう縛りプレイだと思えば良いんだ」
「縛り、プレイ?」
「そ。ユキに『フリーダムウィーク』とか言われた時はコイツマジで殺してやろうかと思ったし、それなら思っ切り楽しんでやろうとも思ったけど」
「……?」
「俺はユキとしかしちゃダメだってことにして、無理矢理されてる感を出せばいいんだよ」
「……えっと…?」
簡単な話だ。物理的に縛られんのも好きだけど、精神的に縛られてると思えばいい。
ユキが飽きるまで、俺はユキとしかしない。しちゃダメだと自分に言い聞かせる。俺は今ユキが一番だ。そう、そういうことにしよう。
「マキちゃん…?僕の話、聞いていたかな?」
「おう!俺はユキを選ぶわ」
「え、あぁ、うん?」
藤間が困ったような顔で首を傾げた。そこに、エリカちゃんがやって来て、呆れたように言った。
「藤間さん、何を言っても仕方ないわよ。この子もユキちゃんと同じくらいのアホだから」
「そ、そのようだね……」
なんでアホだと言われてんのかはわからなかったが、自覚しているので特に気にはならない。
そんでもってアホな俺は、ユキの嫉妬心がどうとかいう、当初の目的なんか既に思考の彼方へ飛んでしまっていた。
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