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まずは胃袋から2

★  翌日、目を覚ますと、いつも隣でべったりくっついて寝ているハズのユキがいなかった。  かわりに狭い部屋の中いっぱいに、炊きたてご飯と味噌汁のいい匂いがした。  横になったまま台所に目を向ける。ユキの背中は、身長は俺と変わらないのに大きく見える。それだけ見るとカッコいい。  しばらく寝ぼけた目で見つめていると、ユキがサッと振り返った。 「いつまで見つめてんだよ?」 「お前背中に目があんの?」 「いや。ただ、マキの視線はわかるぜ」 「怖っ」  自然と笑みが漏れる。変なの。  ユキは一度手を洗ってから、ベッドの淵に腰を下ろした。そんでもって、身をかがめて触れるだけの優しいキスをしてくれる。 「朝ごはん…って時間でもないけど、食べる?」 「お、おう」  俺は少し警戒した。また、優しさを見せておいて鬼畜な事を考えてんじゃないかと、ユキを疑いの目でみてしまう。  それか俺は今、同じようで少し違う異世界にでも飛ばされているんじゃないか、とも疑う。 「今何時?」 「11時半過ぎ」 「いつから起きてんの?」 「9時くらいかな。一通り掃除もしたし、洗濯物もやった」 「ふーん」  素直にありがとうと言えないのは、俺の悪いところだけど、あまりにもユキがおかしいせいでもある。  ユキは俺の手を引いてベッドから起こすと、ローテーブルの前に座らせる。 「ちょっと待ってな」  何度も繰り返してきたような、自然な流れでユキは俺の前に食事を用意した。 「なあ」 「ん?」  出来立ての食事を前に向かい合って座る。そんで、俺は我慢できなくなって言った。 「なんか企んでんの?」 「え?」  キョトンとした顔で、首を傾げるユキ。俺はさらに言う。 「急にどうした?メシなんか作ってさ…お前そんなヤツだったっけ?」 「あー……そうだよな、そりゃ疑うよな」  ユキがヘラっと笑う。それから、申し訳なさそうに言った。 「いや、ほら。オレお前に世話んなってばっかだしさ…せめて家事くらいちゃんとやろうかなって。それにマキはほっといたら何も食わねぇじゃん。それこそ一日中ベッドから出ないし。なんか、世話してやりたくなんだよ、そういうの」 「あ、ああ、そう…」  あれ?  これは勘違いしてもいいんじゃね?  俺ちょっとユキの事誤解してたんじゃね?  疑うべきは目の前のイケメンじゃなくて、自分の荒みきった心の方じゃなかろうか。 「もともとさ、オレ色んな人のヒモやってたんだよ…っても、長続きした事ないけど。んでやっぱさ、金出してもらってんだから家事全般はやってた。まあ、メシは下手くそだから、あんまやらせてもらえなかったけど」 「確かにお前の作るもん、変な味する」 「正直だな……」  ユキの料理は、こんなにいい匂いがするのに、なんでだろうと思うくらいなんか足りない。 「そう言うわけで。オレ、マキのこと好きだし、ちゃんとしようと思って。マキにはずっとそのままでいて欲しい。オレと一緒にいて欲しい」 「ユキ……」  昨晩エリカちゃんや藤間と、そんな話をしたばっかりだった。健康で長く一緒にいたい。そう思うのは、その人が好きだからだ。わざわざ手間をかけて料理するのも、愛があるからだ。  本当にそうなのだろうか。  とにかく俺は、ほとんどの人が自然と望むような恋愛をしたことが無かった。二人で同じベッドに寝て、起きたら食べるものがあって、テーブルを挟んで食事して。  空いた時間に出かけたり、一緒に買い物したり。  疲れて帰ったら、スキンシップ程度に触れ合ってまたベッドに入って寝る。  そういう事を、したことがなかった。  付き合っているというのは、セックスをする口実で、そこに愛を感じるのかは俺次第だった。  だから、ユキのこの優しさに、やっばり俺はすぐに靡いてしまうんだ。 「……ありがと」 「いいよ。ほら、さっさと食べようぜ」 「ん」  俺のことちょろいって思った?  ……不本意だが、アタリだ。

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