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まずは胃袋から5
☆
オレは疲れて寝ているマキを残し、ひとり部屋を出る。
昨日のマキは本当に可愛かった。一週間我慢した甲斐があった。
一度目で気絶したマキを、殴って起こして三回程続行したのも、多分マキは覚えてないだろうな。めっちゃ可愛かったのに。
目を覚ます度に、信じらんねぇといった顔をするのが、たまらなく最高だった。
まあ、そんな話はおいておくとして。
オレが向かったのは駅前の喫茶店だ。今日はそこで、悠哉と待ち合わせしている。
「またせたな」
「ん、いいよ。僕も今きたところだから」
オレたちは店の端のテーブル席に向かい合って座り、とりあえずアイスコーヒーを頼んだ。
少し前から頻繁に二人で会っているが、悠哉はマキと違って感情が読み難い。いつも笑顔なのが、なんだか少し不気味ですらある。
「上手くいったの?」
店員が持ってきたアイスコーヒーにシロップを大量に投入しながら、悠哉が悪戯っ子のように笑って言った。
「おう。それはもう、めちゃくちゃ上手くいった」
「よかったね。兄ちゃん単純で可愛いよね」
「間違い無いな」
そう答えて、オレは用意していた封筒を取り出し、それを悠哉に渡す。悠哉は中を確認して、となりの席に置いてあったリュックにしまった。
「で、ちゃんと恋人になれたってことで良いんだよね?」
「ああ。悠哉のアドバイスのおかげで、な」
というのも、オレはマキを本気で手に入れようと考えていたが、自由奔放なアイツの心まで手に入れるにはどうすべきか悩んでいた。
顔とちんこでしか人を判断しないようなヤツだ。付き合うのは簡単だが、オレだけを考えるようにするにはどうすればいいのか悩んだ。
そこに、悠哉が協力を申し出てくれた。
兄ちゃんを手に入れる方法を教えるかわりに、隠し撮りの写真や、今まで撮った映像が欲しいと、悠哉は言った。
オレはそれに乗って、悠哉が言った方法を試した。
それはセックス無しでマキの世話を焼くというもので、もともとヒモだったオレには簡単なことだった。
マキは今まで普通の恋をしたことがない。だから、情緒的な他人との付き合いを知らない。
オレがそういった普通の恋人同士の行動をとれば、嫌でもマキは気にする。基本的にマキはアホだから、自分の為に?と、胸キュンしてオレをもっと意識するという作戦だった。
そのために料理も頑張ったが、味に文句を言いながらもマキは満更でも無さそうだった。
結果的に上手くいった。あげくなんでもするとか言い出した。最高。めでたく尿道責めができた。最高。
「兄ちゃんおバカだからなぁ。ユキさんのこと本当に信用したんじゃない?」
「そうだろうなぁ。可愛いヤツ」
「しばらくは優しくしてやりなよ?そしたら、多分どんなプレイもやらせてくれると思うよ。単純だから」
「え?」
しばらくは、優しく?
「どうしたの?」
悠哉が、固まったオレを怪訝な顔で見つめる。
「いや…オレ優しいよな?」
「知らないよ……もしかして、流れで酷いことしたの?」
「何回か殴った」
悠哉が眉を潜めた。
「ま、まあ、それくらいなら兄ちゃんは逆に喜ぶだろうけど……それだけ、じゃないよね?」
完全に見透かされている。四歳も年下なのに、さすが有名国立大学に通う男だ。
「ちょっとその、ちんこの先から金属のものを……」
そう言うと、悠哉はあちゃーという顔をした。
「マジか…」
「で、でもなんでもするって言ったのはマキの方だ!」
「そりゃ兄ちゃんはクソビッチだから、なんにも考えずに必死でそう言ったんだろうし、想像もつくけど」
相変わらず、実の兄に対する評価がぶっ飛んでるなぁ、と思った。
ってのは、今はどうでもいい。
「でもでも!一応経験済みなんだよな?」
「まあ、健一さんと関係があったときに、一通り人間が許容できる限界のプレイはやってると思うけど……」
「けど?」
そこで悠哉が、思いっきりため息を吐き出した。
「健一さんとやってからハマっちゃったみたいで、兄ちゃんが自分でブジー突っ込んだ事があるんだけど」
人にやっておいてなんだが、自分で自分のに異物を突き刺すのを想像するとケツの穴がヒュンとなる。
「やり方が悪かったのか、その後高熱出して……膀胱炎になったんだよね」
思わず口に含んだアイスコーヒーを吹き出しそうになった。
「アホだ……」
「そう、アホなんだよ、兄ちゃん……」
だからあんなに頑なに嫌がってたのか。
「相当痛かったみたいで、それから多分いじってないんじゃないかな」
ということは。
「オレ、めっちゃ酷いことしたんじゃね?」
「多分兄ちゃんブチ切れてると思う」
「だよな」
「うん」
でも知らなかったワケだから、許してくれるよな、うん。
「ゼリーにしなくてよかったぜ」
実はゼリー飲料とブジーで迷っていた。それで、無難な方にした。冷蔵庫のゼリー飲料は飲んでごまかそう。
「本当に鬼畜だよね、ユキさんって」
「好きなヤツにはなんでもしたくなるんだよ」
悠哉が呆れたような顔をした。
「愛が重いよ」
「そうか?オレはいつだって、大事なものには真っ直ぐだぜ。マキの為なら死んでもいい」
「なるほど、健一さんの言う通り、執着心の塊ってわけだね」
「なんとでも言えよ」
そう言えば、悠哉はニコリと微笑んだ。
「じゃ、またなんかあったら言ってね?もちろん等価交換だけど、力になるよ」
「ん、ありがとな」
空になったグラスをそのままに、悠哉は席を立った。
テーブルに千円札を置いて、無言のまま立ち去る。
さすが金持ちの息子。流れるような動作だったから、大人として断ることもできなかった。ありがたく貰っておこっと。
「さて、どうやって謝ろうかな……」
とにかく、オレの頭の中はマキにどうやって謝るかでいっぱいだった。
やっぱり恋人やめる!とか言われた日には、オレは真剣にどっかのビルから飛び降りようかと考えていた。
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