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デートとは?1
★
ユキと出会ってもうすぐ二ヶ月という頃。
「ああっ……も、イき、た…い」
クーラーの冷気に冷やされた部屋で、俺たちはせっせと汗をかいていた。寝る前の運動みたいなものだ。この後もう一度シャワーを浴びる元気が、果たして俺にあるのか、甚だ疑問である。
ユキはいつもの如くバックが好きで、俺の両腕を強引に後ろに引っ張りながら、これでもかと言うほど奥に奥にと突っ込んできて、すでに三度達しているにも関わらず、全く萎える様子もない。
俺の穴から、グポグポと卑猥な……というより、括約筋が機能してないんじゃないかというような音がしている。
「もうちょい奥にイケる気がする」
「はっ…な、なに?…何、言ってんの?」
「あと二本腕があったらいいのにな……」
「……は?」
「そしたら、マキの腕を持ちながら、尻の穴を拡げられる」
ちょっと本気で何言ってんのかわからない。
「それか、首絞めながらちんこシゴいて、乳首弄りながら動けるのに」
ユキの超絶思考には慣れてきたつもりだった。
俺が甘かったようだ。
「分身するのでもいいかも……そしたら、ちんこの絶対数が増える……三人くらいに分身して、マキの喉に一本、ケツに二本……ヤベッイキそう!!」
「どんなタイミングで!?」
俺のツッコミは虚しく、ユキはまた、奥に熱い液体を流し込んだ。
「〜〜〜ッ、も、ホント…ヤメて……」
もう何度イったかわからない。それなのに、俺のちんこには、付け根に沿うようにシルバーの輪が嵌められていて、出したいものが出せずにいた。
「大丈夫、気絶したらまたブン殴って起こしてやるから」
「…ひぁ…も…ん……ふぁ」
「マキ?」
ユキの凶暴な突きが、内臓をグチュグチュと抉るから、多分本来入ってはいけない所まで届いてしまっているのだろうけど、ともかく俺は、もう息もできないくらいに感じていた。
「マキ?聞こえてる?」
「……んふ…は、はぁ……」
ユキが俺の根本を縛る輪を外した。ビュクビュクと先端から競うように白濁した液体が漏れる。まるで放尿してる気分。身体が言うことを聞かないくらいに痙攣した。
そのまま俺は不本意ながら意識を手放した。ユキが相変わらず腰を打ち付けていたが、もはやなんも感じないくらい、死んだように寝た。
★
目を覚ましたのは、朝の9時前だった。俺にしては早い方だ。
絡みつくユキの腕と足をどけて、ベッドから降りる。
「うわっ」
形容し難い、なんとも言えない倦怠感。足に力が入らないから、床にへにゃっと膝をついた。
ユキといると、俺はそのうち本当にヤリ殺されるんじゃないかと思う。付き合うことになって約一ヶ月だが、ユキの性欲は人外の何かだ。俺の手には負えない。
きっとちんこに童貞で死んだ何かの霊がついている。
という、冗談はさておき。
とにかく無茶苦茶しやがって、と思う。
毎日立ち上がるのもやっとで、ここしばらくパチ屋の整理券配布に間に合わない。俺がどれだけパチ屋に貯金してるかわかってんのかこのアホは。
でも、ユキは絶対に後の処理をしてくれる。
この俺が……自分で出す(ここまでがプレイ)、もしくは翌日思いっきりお腹を下すの二択だったこの俺が、爽やかな(足腰が立たないのは別として)朝を迎える事ができる日が来るなんて、人間何が起こるかわからんな。
そんなことを考えながら、テーブルの上のタバコを一本取って火をつけた。灰皿がいつのまにか、どこかの居酒屋でパチってきたプラスチックの物じゃなくて、雑貨屋に売ってるようなデザイン性の高いものに変わってる。
それに気付くと同時に、そういえば、俺の部屋はいつのまにか、ユキが増やしたものでいっぱいだった。
台所に並ぶ食器はお揃いの物ばかりだし、調理器具も増えた。小さな冷蔵庫には点々とメモが貼ってあり(ユキがレシピや今度買うものを書いてる)、洗面台には風呂上りに付ける良い匂いのヘアケア用品があったり、洗濯洗剤もなんか良い匂いがするヤツになっていたり……
認めたくはないが、ユキは有能なニートだ。
ヒモやってたってのも頷ける。顔もいいしちんこもデカい。
なんで今までのヤツらと続かなかったのか、甚だ疑問だ。
「んー、マキィ……」
ユキの寝ぼけた声が枕に吸収される。俺はそれをタバコの煙の向こうに見ながら、今日のメシ何かな?とか考えているわけで。
なんか……めちゃくちゃ馴染んでね?
つかコイツ、金髪だけど全然髪痛んでなくない?と、どうでもいいことを考えて、気恥ずかしさを隠した。
「おーい、修哉ー!起きろー!朝だぞー!今日もいい天気だぞー!平日の朝だぞー!」
外から叔父の声が聞こえた。新しいタバコを咥えてドアを開ける。
「うるせぇ!!」
「おわっ!?なんだ、起きてたのか」
叔父はまるで信じられないものでも見るような顔で驚いて、それから俺の全身をじろじろ見た。
「何だよ?」
「いや…その、お前大丈夫か?」
「は?」
なんだか少し顔を赤くした叔父が、例の如くパンイチの俺から目を逸らす。
「激しいな……」
その反応に、まさかと思った俺は急いで洗面台へ走った。足腰が鈍い痛みを訴えるのも無視した。
鏡の前に立つ。全身に赤紫の小さな跡。どれだけ強く噛んだのか、歯型もくっきり残っていた。しかも、見える位置に。
「ッッッ、ユキッ!!!!」
イラッとして、ベッドでスヤスヤ眠るユキの頭をブッ叩く。バシィィンと、良い音がした。
「ん、マキ…」
まだ寝ぼけているユキが、俺の足にしがみ付いてくる。
「おいコラユキ!!起きろ!!」
「ふぁあ…おはよ」
「おはよ……じゃなくて!!」
俺はもう一度ユキの頭を叩く。目をパチパチとさせて、ユキが覚醒した。
「俺、跡付けるなって言ったよな?」
「えー?」
何のこと?という風な、ユキの視線は確実に自分が付けた跡を凝視している。そんでちょっと満足そうにニヘラッと笑った。死ね!!
「跡付けられるの嫌いなんだって言ったよな?」
「別にいいだろ…お前オレのモンなんだし。それともどっかで裸になる予定でもあんの?それなら跡だけじゃなくて傷だらけにしなきゃな…相手が萎えるくらいにさ」
コイツ…!ちょっと魅力的な事言うじゃん…!
今度やってもらお。
じゃなくて、
「こういうすぐに消えるような意味のないモン、イヤなんだよ」
歯型はまだいい。痛いの好きだから。
でもキスマークって、別に痛くも痒くもないんだから付けなくてよくない?
なんで世間の多くの男は、こういう、どうせ消えてしまうモノに執着するんだろうか。本当に所有したいのなら、消えないモノにして欲しい。
それにキスマークは、俺の心を疑われているような気分になる。そんなモノで主張しなくても、俺はユキとしかしないのに。
俺はクソビッチだけど、付き合うと決めた相手がいる時にはソイツとしかしない。不本意だが、アブノーマルDV男健一と付き合っていた(と俺が思っていた)ときも、他のヤツとはやらなかった。まあ、傷だらけで人前で脱ぐのも躊躇われる状態だったというのもあるけど。
「んじゃマキは、消えない跡付けてもいいの?ならオレはお前の背中にナイフで、雪村幸太って刻んでもいいわけ?」
ユキの表情は真剣だった。むしろ冷たくすらある。
ユキは、俺が「いいぜ」と言ったら、今すぐにでも実行するんだろうな……
「なんか勃ってきた…」
「オレも…」
「お前らはアホか!?」
部屋の中に上がり込んだ叔父が叫ぶ。
「いちいち発想が過激なんだよ、お前ら……」
はあ、と溜息を吐き出して頭を抱えた叔父が、諭すように言う。
「あのな、キスマーク付ける付けない問題はこの際おいておくとして。お前らの性的思考も、この際放置するとして。もう少し感情面で絆を深めたらどうだ?」
俺もユキも、同時に首を傾げて叔父を見た。
「「どういう意味?」」
不本意だがユキと言葉が被る。
「はあああああっ、これだから変態どもは……」
叔父が珍しく、ローテーブルの前に腰を下ろした。以前は、「こんな汚い部屋長居は無用だ」と、上がり込んでくることもなかったのに。
「いいから聞け。修哉も座りなさい」
有無を言わせない感じで叔父が言うので、俺もユキも、並んで叔父の向かいに座る。なんでか正座した。
「あのな、普通恋人ってのは、何回もデートして、お互いの気持ちが通じた時に肉体的にも繋がるんだ」
「叔父さん、セックスって言ってくれないとわかりません」
「おまっ!ま、まあいい。とりあえず、普通はセックスありきで付き合うわけじゃない。それが恋人同士と言うヤツなんだ!」
また、俺たちは同時に首を傾げた。
「恋人同士なのにセックスしないのかよ?」
「しないとは言ってない。ただお前らみたいに毎日毎日何度も何度もはしない!!」
「つまんねぇの」
じゃあ恋人って何だ?
「はあ。なら聞くが、修哉はユキくんのどこが好きで付き合ってるんだ?」
「ちんこがデカい。あと顔が良い」
バシィィンと、叔父が俺の頭を叩く。
「????」
「そうじゃなくて、気持ちの面で聞いてるんだよ!!」
「えー?んー……メシ作ってくれるところとか?」
「そう!そう言うヤツ!」
「家事やってくれる……基本的に優しい」
と、答えながらなんとなくわかった。俺はいつも、付き合うのはセックスをするための口実で、優しさは雰囲気作りのためだと思っていた。
でも、確かに行為そのものじゃないところで、ユキがいてよかったなと思うことが無いわけじゃない。
人並みの幸せの形は知っているが、それを初めて与えてくれたのはユキだ。
それに実際、ユキが出て行ったらどうしようと悩んだこともあるわけだから、俺は割とユキのことを真剣に好きなのかもしれない。
まあ、あのあとちんこにブジー突っ込まれたのは許せんが。そのせいで俺は疑ってる。ユキの愛情は俺を勘違いさせてプレイを楽しむためのものだと。
「ユキくんはどうだ?」
「オレは……マキの普段澄ました顔してるのに割と情に厚いところとか、嫌々でもエリカちゃんとこの手伝いちゃんとしたりとか、口は悪いけどオレのこと気遣ってくれたりとか、そういうところが好きだ」
なんかまともな事言ってらぁ。
「なんだお前ら、意外と本気なんじゃねぇか」
叔父さんはやれやれと首を振り、続けて言った。
「そう言う感情は、セックスばっかじゃわからねぇもんよ。お前らたまにはデートでもして、相手のこともっと知ったらどうだ?」
俺とユキは、三度目も同時に首を傾げた。
「「デートって、どうやんの?」」
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