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学祭2
★
目覚めると同時にトイレに走った俺は、ちゃんと出てよかったとか思いながらベッドの上に戻ると、ちょうどユキも目を覚ましたところだった。
大きな欠伸をひとつ溢すユキは、寝起きもイケメンだ。顔がいいってのは、人生得してるなと思う。
「おはよ、マキ」
「ん、おはよ…」
と言いつつ、ユキに背を向けて布団に潜り込むと、ユキが俺の足の間に片足を突っ込んでくる。
夏も過ぎ、最近少し肌寒くなってきた。
そろそろパンイチで過ごすのも辞めないと。
「マキぃ…」
ユキが後ろから抱きしめてくるのを、うんざりしながら耐える。まるでデカイ子どもだ。それをイヤじゃないと思うのは、今までこうして誰かに抱きしめられたことがないからだ。
「そういやさぁ」
「ん?」
ユキのくぐもった声がする。同時に首筋にユキの吐く息がかかってくすぐったい。
「昨日、トモちゃんが、」
「あ!!!!」
思わずガバッと起き上がって叫ぶ。ついでにユキを睨みつける。
「お前っ!!トモちゃんの前でなんて事すんだよ!?」
全部思い出した。いや、正しくは全部じゃない。何度か意識を飛ばしていたし、あまりにも気持ち良過ぎてユキの声もあんまり聞こえてなかった。
「えー、オレはむしろトモちゃんには感謝してもらいたい」
「はあ?」
「だって可愛いマキのお裾分けしてやったんだぜ?そこはありがとうございますと言われるところだろ」
何言っちゃってんの、コイツ。
「普通は見たくないだろ。しかもノーマルなトモちゃんに見せるには変態過ぎだった」
尿道口拡張しながら尿道バイブは衝撃すぎる。俺がまともな男だったらトラウマものだ。
「目覚めちゃったらどうする?3Pでもする?」
「お茶する?みたいに言うな!!」
そんな気軽な3Pの誘い方があってたまるか!!
「謝らないと」
俺のインランちんこ犯されてるとこ見せてゴメンナサイ……じゃねぇな。普通に用があって来たのだろうから、話聞いてやれんくて悪かったと言うべきだな。
全く、長年の習慣って怖ぇな!!
時計を見ると、午後一時を回ったところだった。トモちゃんは大学に行っているだろうし、帰ってくるとしても夕方か。
「じゃあ今度会うしそん時に謝れば?」
ユキも謝れよと思う。少なくとも、昨日の行為は共同作業だったし、お前にも非があるだろうと。
ちなみに俺はもう、尿道責めに文句は言わない。言ってもユキは聞いてくれないし、やっぱり直接前立腺を刺激されるのは気持ち良い。俺を変態と言うヤツは一回やってみてから意見して欲しいくらいだ。
ってのは、今はおいておくとして。
「今度会うって、どういう事だよ?」
そう聞くと、ユキは肩を竦めて答えた。
「なんか、トモちゃんの大学の学祭が土曜にあるから、良かったら来てくださいだって。トモちゃんサークルでクレープ作るらしい」
俺の意識がハッキリしない間に、そんな話になってたのか。トモちゃんの大学、なぁ。
「オレさ、言ってなかったけど実は中卒なんだよな。だからさぁ、大学の学祭って憧れてたんだ。オレには縁の無い世界だなって」
伏せられた目元と、無理に浮かべようとしている笑顔に、俺はちょっと心がズキッとした。
俺は恵まれた環境を自分から捨てた人間で、少なくとも実家にいるときには、親の金を使ってクソみたいに贅沢な遊びをしていた。
そんな俺には、進学もできないような境遇のユキの気持ちを推し量ることなんてできない。
「……学祭っても、そんな楽しいもんじゃねぇけど…ユキが行きたいなら行ってもいいぜ」
そう言うと、ユキがパッと明るい笑顔を浮かべた。眩しい。イケメン最高。
「まあ、もう行くって言ったんだけどな。ちなみにお前もイき狂いながら「行ぐぅう!!」って言ってた」
「完全に言わしてんじゃねぇか!!」
くっそぉ!全く覚えてねぇ!
しかもそのちょっと悪意のある俺の声マネやめてくれ。地味に傷付くわ。
トモちゃんの大学って事は、悠哉もいるよな。あいつの大学生活ってどんなんだろ?
にしても、この底抜けに明るいユキにも、暗い過去があるんだなぁ。
そう思うと、ユキのどんな言葉にも逆らえない。
最近すっかり自覚してしまっている(そして諦めてもいる)が、俺はユキにものすごく甘い。
★
そんで、土曜日。学祭の日がやってきた。
俺はユキと、トモちゃんや悠哉が通う大学へちゃんと行った。
その大学は、門構えからして有名名門国立大学!!って感じで、今の俺がこの門を潜るのはちょっと気が重い。
中に入るのを立ち止まって躊躇っていると、ユキがまたアホなことを言い出した。
「マキ、今日のオレは大学生な」
「は?」
なんか始まった……
俺は冷静に、とりあえず話だけでも聞いてやろうと思った。そんな俺はユキより大人だ。
「学祭デートするラブラブ甘々学生カップルという設定にしよう」
「ムリがあるくね?」
「大丈夫、マキもオレも年齢より若く見えるから」
「そう言うことじゃなくね?」
そしてユキは若くは見えない。良い意味で年相応だ。俺は……年齢不詳とよく言われる。
「じゃあなんだよ?お前はオレとラブラブ甘々デートすんのイヤなの?」
しょんぼりと項垂れるユキ。そうだった、コイツ、学祭楽しみにしてたんだった。
「っ、イヤ…では、ないけどな」
「なんでそんなイヤそうに言うんだよオォォオ」
「おいやめろ!!叫ぶな!!目立ってる、悪目立ちしてる!!」
当然ながら学祭は、学生のためだけのイベントじゃない。普段から地域交流の盛んなこの大学の学祭にやってくる人は多い。
周りを歩く人たちが、怪訝な顔で俺たちを一瞥していく。
「マキ…じゃあこうしよう」
凝りねぇなと思いながら、またもとりあえず聞いてやる。
「どっちがより上手くラブラブ甘々デートできるか勝負しよう」
「またお前、くだらないこと言ってんじゃねぇよ」
呆れる俺に、ユキはニヤリと悪い顔で笑う。そんな顔もやっぱりイケメンだ。ムカつく。
「もしマキが勝ったら、今日はお前の望み通りのセックスしてやる」
ドキッとする俺の耳元に顔を寄せるユキ。吐息が耳にあたって、顔が熱くなるのを自覚する。
「精一杯甘やかして、ドロドロのぐちゃぐちゃにして可愛がってやってもいいんだぜ」
熱い吐息が耳をくすぐる。散々ユキとヤッてる俺の身体は、そんなあからさまな煽りにさえも熱を溜めてしまう。
それに、いつも無理矢理好き放題にされているから、たまには優しくてもどかしいセックスもしたい……愛されてると勘違いできるから。
「……お前が勝ったらどうするんだよ?」
「マキのケツに拳突っ込む」
「死ね!!!!」
んなことされたらケツの穴が一生使い物にならなくなりそうだ。
「ハッ!負けるのが怖いのか?マキらしくないな」
「って、俺が負けた時のリスクだけデカくない!?」
「敷地入ったらスタートな!ほら、一緒にこねぇとオレの不戦勝になるぜ」
「ってめ!!コラ待てよ!!」
めちゃくちゃなヤツ。
めちゃくちゃだけど、良い笑顔で笑ってるぜ、まったく……
まあでも、こうやって強引に背中を押されなければ、俺は前に進めなかったかもしれない。気を紛らわせるためにも、ユキの提案に乗ってやるのも悪くない。
こんなところ、もう二度と足を踏み入れることもないなと、思っていたんけど。
俺はまた、ここへ来てしまったわけだ。
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