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プラセボ効果だからぁ!!1

☆ 『ユキちゃん!!助けてっ!!マキちゃんが、あっ!!ダメよ!?それはユキちゃんのちんこじゃないわ!!アタシのよ!!』  プツッと通話が切れる。  ええええ?  オレは寝起きの頭を必死に働かせた。  通話はエリカちゃんからだった。  スマホの時計を見る。時刻はちょうど0時を回ったところで、この日に限ってオレはマキのオカマバーの手伝いについて行かなかった。  ちょっとだけ頭痛がすることを、マキにバレてしまったからだ。  最近またいっそう寒くなったから、ただの風邪だろうと思うのだが、心配…というより、オレが熱を出した場合、誰が家事をするのかという問題を突きつけられ、オレは大人しく布団に入った。  それが、裏目に出たようだ。  何があったんだ?  エリカちゃんの声は必死だったし、そもそも通話の内容がよくわからない。  ……仕方ない。  オレの可愛いマキを迎えに行ってやるか。  冷え切った室内で、のそのそと起き上がったオレは、重い身体に鞭打って支度を済ませると、これまた冷えた風が吹く深夜の道を歩き出した。 ★  午後9時を回ったあたりだった。  エリカちゃんの店で、俺はせっせとお手伝いに勤しんでいた。  カウンターの裏で背後の棚に背中を預けてしゃがみ込み、一息つこうとタバコを咥えたとき、目の前の席に常連のひとりがやってきた。 「マキちゃん」 「んー?」  見上げると、そいつは与太(よた)さんという五十代のおっちゃんで、嘘ばかりつくから与太さんと呼ばれてる。本名は誰も知らない。  まあ、もとよりこんな酒場で、本名を名乗る人の方が少ないから、誰も気にもしないが。 「俺さ、ええモン持ってきたんよ」 「ええモン?」  俺が首を傾げて聞き返すと、与太さんはニヤニヤと笑って頷いた。 「前にさ、一本飲んだらナニが火を吹くほど元気になるドリンクがある言うたやろ」 「…何だそりゃ?」  与太さんの話は、与太話程度にしか聞いてないから、そんな話をした覚えもなかった。つか、ナニが火を吹くってヤベェ。 「マキちゃん信じてへんかったからな、やるわ」 「は?」 「ほれ。一本でパンパンよ」 「そもそも俺、別にそこ困ってないんだけど」 「ええから。よう効くで」  ニヤニヤして栄養ドリンクのような茶色い小瓶を渡してくる。  俺はため息を吐いて、与太さんに言った。 「あのなぁ、そういうのは気持ちの問題だぜ?催淫剤ってのはさ、結局勝手にちんこガチガチになったりするわけじゃやくて、」 「いや、ガチやて!ガチガチ!」 「オモロねぇ」  タバコの灰を、床に置いた灰皿に弾き飛ばし、俺はその小瓶を眺めた。ラベルも何もない、簡素な小瓶だ。 「効かへん言うんやったら、今飲んでみぃ。これ結構高かってんで。マキちゃんが効かん言うんやったらもう買わん」 「あーそう。効かねぇからもう買うな。普通に勃起しとけ」  さっきも言いかけたけど、こういったバイアグラやらは、結局AVみたいに勝手にちんこガチガチになったりはしない。  あくまでエロい気分になったときに、なんか効果あるんじゃない?程度のものだ。  プラセボ効果といって、使用するものが信じているから夢のような効果が得られたと勘違いするだけだ。 「ほれ、飲んでみ」 「はいはい」  どうせ効かないと思っている俺には、大した効果もない。  だから、俺はその小瓶の液体を、なんの躊躇いもなく飲み干した。苦い、なんとも言えない味がした。 「こんなもん、一体いくらしたんだよ?」  うえっ、と舌を出す俺に、与太さんはニヤニヤしたまま答える。 「一本3万や。ヤベェで、マキちゃん。もうビチャビチャになるで」 「ウソつけよ…こんなもんに3万出すくらいなら、俺のベロチューに出せよ」 「それは別口座や」  なんだよ、このおっさん。どんだけ金持ってんだよチクショー。 「効いてきたらすぐわかるで」 「効かないって」  ニヤニヤ笑って去っていく与太さんを見送り、俺はもう一本タバコを咥えて火をつけた。  午後10時半には、藤間が店に現れた。  いつもと同じく、高そうなスーツを着て、疲れた顔に優しげな笑みを浮かべて、いつものテーブル席に座った。  エリカちゃんやマイコちゃんは、他の常連と盛り上がっていて、与太さんは相変わらず嘘か本当かわからない話を披露していた。  俺はいつものように、名札のついたボトルとグラス二つ、氷の入ったバケツを持って藤間の隣に座る。 「マキちゃん、最近はどう?」 「どうって、特に変わりはない。あ、そういや、最近パチ行ってないや」 「行かない方がいいよ。あんなの、お金のムダだと思う」 「確かに。このままやめようかな」  と、適当に答えながら、ウィスキーを用意して、軽くグラスを合わせて一口飲んだ。 「ユキちゃんとは、最近どうなんだい?」 「ユキ?」 「そう。上手くいってる?」  俺は常連には、恋人がいる事を話してある。話した上で、金を出すやつとはベロチューして稼いでるわけだが、藤間も仕事とプライベートは別だからと言う理由で、ユキとのことは心配しつつ、ちゃっかり金をだしている。 「ん。この前、ユキの実家行って母親に会った。めっちゃいい人でさぁ、俺のこと受け入れてくれて、今それなりに順調と言える」 「あはは、まるで他人行儀だね。でも、うまく言ってるならそれでいい」 「おー。相変わらず、ユキのセックスは容赦ないけどな。俺の尻はそのうち壊れるわ」 「怖いこと言わないでよ」  あはは、と笑い合う。藤間と話していると、なんか穏やかな気分になる。 「でもあんな自分本位なセックスするヤツ、なかなかいないぜ。そりゃオモチャ使ったりも、自分本位っちゃそうなんだろうけど」 「君の元彼の話?」 「そ。健一はガチの鬼だから。俺が泣いても叫んでも、絶対にやめない。マジで恐怖」  と、思い出すだけで鳥肌が立つ。鳥肌と同時に、俺の下も勃ちそうになる。だって、結局俺はその健一の行為にハマってたわけだから。 「ユキも大概だけど、ちんこデカいから許す。あと顔がいい」 「僕には勝ち目はなさそうだ」 「ベロチューならいくらでもやってやるぜ。金さえくれれば、だけど」  藤間はニコッと笑って、スーツの内ポケットから財布を取り出した。どうでもいいけど、スーツの内ポケットから財布出すのってカッコいいよな。俺はそもそもスーツが似合わないから羨ましい。  藤間が出した札を、いつもの如くサッとデニムのケツポケットにしまう。 「今日は気分が良いからサービスな」  と、俺は藤間の膝の上に乗って向かい合った。実際、なんだかフワフワした気分で、そんなに飲んでないのになぁ、と思った。ユキの体調が悪そうだったこともあって、今日はあまり飲まないようにと気を付けていたから、変なのと軽く流した。  至近距離で見る藤間の目は知的で、引き込まれそうな魅力がある。俺やユキのようなアホにはない魅力だ。見つめていると、その目の中にスーッと吸い込まれそうになる。俺は小さな虫みたいになって、ブラックホールのような暗くてキラキラした藤間の眼に、そこがどこへつながっているのかもわからないまま飛び込んで行きたいような、なんか、あー…アレ?頭が変だ…… 「マキちゃん?」 「んー、なに?」 「大丈夫?」 「あー、うん…大丈夫」  藤間の声が、まるでエコーでもかかったみたいに頭に響いた。  藤間の声が俺の耳から入って脳みそを甘くかき乱し、ジワジワと電気刺激みたいに下腹部に伝わった。  きっと、藤間の声は甘い砂糖でできている。だから、俺は今、脳みそを砂糖漬けにされてる。 「…はぁ…藤間、さん…俺今日変かも」 「マキちゃ、ん!」  名前を呼ばれると、ビリビリした刺激が背筋を襲い、その甘い声に俺の意識が全部持ってかれる。これ以上藤間の声を聞いていたら、俺はバカになってしまう、と思って、急いで塞いだ。 「ん…ふ、はぁ……んは」  おいしい。甘いのは好きだけど、今日は何を口にしても甘い気がする。 「マキ、ちゃん!!」  藤間が俺の肩を押した。俺は無意識に藤間の肩に両腕を回していたようだ。いつもはそんなことしないのに。 「あー、なんか、俺変だよな?」 「大分おかしいよ…」 「だよなぁ」  現実感がない。というのは自覚してる。フワフワと空中を浮かんでいる埃みたいに、身体が軽い。のに、熱い。 「エリカちゃん、マキちゃんが体調悪いみたい」  俺をソファに下ろした藤間が、心配そうな声でエリカちゃんを呼んだ。 「あらヤダァ、風邪ひいたの?」 「風邪ひいてるのはユキの方だ」 「四六時中ヤッてるからうつったんじゃない?」  確かに。  つか、ユキ大丈夫かな?今無性にユキのちんこが恋しい。いや、そうじゃなくて、ユキは今体調不良なんだから…じゃあ俺は今誰とヤればいいんだ? 「マキちゃん!」 「ちょっと!ホントしっかりしなさいよ!?」  藤間の声は相変わらず甘いけど、もうエリカちゃんでもいいや。ついてるものはついてるんだし。 「イヤァアアア!!この、スケベ!!」 「痛っ!?」  拳骨が降ってきてちょっと正気に戻った。俺はいつのまにかエリカちゃんに抱きついて、ちんこ握ってた。ヤベェ。マジで俺どうした? 「はぁ…も、なんでもいいからヤりたい…じゃなくて…んぁ…ちんこ爆発しそう」  触らなくてもわかる。俺のちんこは今ドロドロだ。下着に擦れる感触だけでイケそう。変な声出ちゃう。  立っていられなくて床に座り込む俺に、藤間が大丈夫?と言って肩を摩る。完全に逆効果だった。 「ひぁっ!?」 「っ、ご、ごめんね」  俺がビクッと身体を震わせると、藤間もビクッとして後ずさった。 「ほれ!言うたやろ、よう効くて!」  そこに、ニヤニヤ笑う与太さんが、アルコールの入ったグラスを片手にやってきた。 「ちょっと、どう言うことよ!?」 「マキちゃんが俺のバイアグラ効かん言うで、一本やったんや。試してみぃ言うて。なんも考えんと一気飲みして、アホやなぁ」 「アンタなんてことすんのよ!?」  キレるエリカちゃんが与太さんの胸ぐらを掴んでブンブン揺する。与太さんはゲラゲラ笑いながら、イヤラしい目で俺を見下ろし、俺はそれでまたゾクゾクと背筋が震えた。見下されるのってたまんねぇよな。  いやいやいや、そんなこと考えてる場合じゃねぇ!! 「あんなもん効かねぇよ…大体なぁ、バイアグラっていうのはぁ……えーっと、脳が刺激されて血管拡張作用が…心拍数と呼吸数を増大させるから……」 「マキちゃん!!マキちゃん!!しっかりしなさい!!」  今度はエリカちゃんが俺の胸ぐらを掴んでブンブン振った。  そのせいでフワフワしていた脳がグルグル回りだし、ジェットコースターのような爽快な気分になる。 「アハハハハハッ!」 「マキちゃん!!」  自分の笑い声が聞こえ、次いでバシィンと頬を叩かれた衝撃でちょっとイった。 「も、ちょっと出ちゃったじゃん…もっかい叩いてくれる?」 「マキちゃああああん!?」  エリカちゃんが叫び、与太さんがまたゲラゲラと笑い出す。藤間は俺の斜め前でオロオロとしていた。 「もう!どうしてくれるのよ!?」 「そのうち治るがな」 「ユキちゃんに怒られるじゃない!」  ターゲットを与太さんに変えたエリカちゃんが俺の胸ぐらを離した。俺はグラつく足を動かして立ち上がり、オロオロする面白い藤間の首に腕を回して抱きつく。  俺よりちょっと高い位置の、知的で優しい目をジッと見つめる。 「ほら、も、平気だから、な?どうせこんなのプラセボ効果だから。俺には効かないんだ、あんなもん……藤間さんはどうする?」 「え?」 「俺のケツに挿れたい?いいよ……その前にめちゃくちゃ叩いてくれるならな!アハハハハハッ!」 「マ、マキちゃん!?」  どうしよう。楽しくなってきた!! 「あー、フフッ…今なら爪剥いでくれてもいいよ。サービスしとく。でも思っきし痛くしてくれないと許さんからな!あははっ」  困った顔の藤間を見てるのが楽しくて、俺はまた浮かんだ言葉をそのまま音にして吐き出す。思ってることと口が協力してる。 「それかぁ…ギチギチに縛って動けないようにして、血が出るまで鞭で痛ぶりたい?最近やってねぇから、すぐイっちゃうかも…」  もうなんでもいいから早くぐちゃぐちゃにしてくれ、と、脳が勝手に要求している。 「ドエロイなあマキちゃん最高や!!」  与太さんが歓声を上げ、俺はそれでまた気分を良くし、藤間が慌てて俺を突き飛ばす。 「ご、ごめんね、マキちゃん!でも落ち着いて!」 「俺にひとりでヤれっていうの?まあ、いいけど」  床に転がった俺は、キツくて気持ち悪いデニムと下着を脱ごうと手を伸ばし、エリカちゃんに叩かれた。 「イッ、はぁ…」 「気持ち悪い声出さないでよ!!」  エリカちゃんがカウンターの裏からガムテープを取り出し、それを俺の腕に巻きつける。後ろ手に拘束され、それがまた逆効果だった。  だって俺動けないの好きだから。 「エリカちゃん縛るの好きなの?あはっ!俺も好き」 「どうしちゃったのよ!?クスリでもやっての!?もう!!」  俺はそのまま笑いながら床を転げ回り、他の常連さんに失笑され、与太さんはゲラゲラと大声で笑い続けた。  藤間はため息を吐きながらテーブルに戻った。 「ユキちゃんに来てもらうことにしましょ」 「その方がいいかもしれないね」  と、エリカちゃんがカウンターの裏で通話を始めた。俺はコロコロ転がって、通話中の無防備なエリカちゃんのちんこに体当たりする。  もう身体の熱をどうにかしてくれるのなら誰でもいいや。とか、こんなに気分がいいんだから最高のセックスできる!とか、そんなことで頭がいっぱいで、手近な棒ならなんでもいいとさえ思っていた。  翌日、ものすごく後悔するのだが、この時の俺は完全にイカれてた。反省はしない。俺は悪くないから。

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