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年越し1

★  12月30日のことだった。 「兄ちゃん、パーティースーツ似合わないよね」 「うるせぇよ」  バカにする悠哉も似たような格好をしているが、見た目が幼児っぽくて似合ってない。 「つかなにこのパーティー?お誕生日会にしては盛大すぎるだろ」  発端は今朝だ。  加藤からのメールの内容が、珍しくロック画面の表示限界を超えていた。なんだろうと確認すると、ズラっと横文字が並んでいて、ひとつひとつ解読していくとハイブランドの店名のようで、どうやら一箇所一箇所回って荷物を受け取ってこいということだった。  既読スルーしてやろうかと思ったが、そんな事してもいい事はないと思い直し、仕方なくユキをほっぽり出して外へ出た。  以前、野外プレイ現場となった街まで行って、指定された店をまわり、「牧ですけど」と言って荷物を受け取って、冬なのに汗だくになりながら最終目的地のホテルに着いたら、俺が苦労して運んだ荷物の中身を全部身につけろといわれ、今に至るわけだ。  俺のかよ!?とか、なんで服のサイズ知ってんだよ!?(着丈も袖も、前ボタンの好みまでご存知でした)とか、色々ツッコミたかったけど、加藤は忙しそうでまだ言えてない。 「社内のお疲れ様パーティーだよ」 「お疲れ様パーティー?」 「毎年30日に一年お疲れ様って社員を労って、優良企業アピールしてるんだよ」 「なんかイヤな言い方だな」  悠哉は小さく肩を竦めて、いつものニコニコ笑顔を浮かべた。 「そんなことより、兄ちゃんと一緒に居られるのが嬉しいよ」 「俺は嬉しくないけどな」 「ヒドォーイ!!」  と、悠哉は無邪気に言うが、俺にはこいつがこの前のことをどこまで知っているのかがわかっていない。なぜなら韓流ドラマ(あくまで印象)並みに牧家の内情は複雑で一人一人の思惑が読めないからだ。  たまに俺や叔父さんみたいに弾き出される人間もいるが、俺はまた戻ってきてしまった。不本意ながら。  俺のいない六年間は、アニキが適当に改竄していた。  海外でアーティスト活動していたが、指を怪我して戻ってきた、とか誰かが噂しているのを聞いた。  オヤジが生きていた頃の顔馴染みとも挨拶した(させられた)。オヤジが死んだショックで、海外へ移住したとかなんとか、俺の知らない俺の人生が語られるのは居心地が悪かった。  なんで誰も疑わないんだろうと不思議にも思った。  まあ、それもアニキの人望のなせるなんとやらだ。  オヤジとは違い、根拠をもとに的確な指示を出し、会社を支えるアニキは、社員の信頼や期待は絶大なようだ。  オヤジはなんか適当な人で、人情のみでなんとかやってるという印象があった。今の時代、アニキのようなヤツの方がウケがいいみたいだ。  ま、どうでもいいけど。 「ところでさ、お前大学行ってんの?」  パーティーの雰囲気が(昔から)嫌いな俺は、壁際でひたすら酒を飲んでいたが、少し前に悠哉が合流し、適当に暇を潰している現在。  トモちゃんが気にしていたことを思い出して聞いてみた。 「最近行けてない」 「なんで?トモちゃんが心配してたぜ」 「だってキョウ兄ちゃんが仕事いっぱいふるんだもん」  ほらみろ。どうせそんなことだろうと思った。 「んなの無視しとけよ。大学は今しか行けねぇんだぜ?」 「辞めた人に言われたくない」 「ブッ殺すぞテメェ!!」  おっと自が出た。パーティー。パーティーなう。気をつけよう。 「戻ってきたんなら兄ちゃんがやってよ。そしたら僕も大学に行ける」  悠哉が名案だと顔を輝かせる。 「ダメダメ。俺はそういうんじゃないから。お客様エスコート係だから」 「……本当に海外から来た顧客のコンシェルみたいなことやってんの?」  不審、というか不満?そうな顔になる悠哉だ。 「おー、やってるぜ。昨日はイタリア人のオッサンとサシ飲みしたわ」 「……なんだか如何わしいね」  ドキッとしたけど、まあ、バレねぇよな。 「んなことねぇよ。日本酒の味比べに付き合っただけだから。うちで取り扱ってる銘柄で気に入った奴がいくつかあって、どれがいい?とかそんな話」 「ふーん」  悠哉の視線は、探るようで恐ろしい。俺は誤魔化すように、近くを通ったウェイターから新しい酒を奪うように取って飲み干した。味もなにも、あったもんじゃない。 「ユキさん元気?」 「お、おう。相変わらずちんこに童貞で死んだ幽霊がついてる」  ニッコリ微笑む悠哉は、俺の言葉を無視した。 「年越し、予定あるんでしょ?」 「まあ一応。お前は?」  と、興味はないけど聞いてみた。 「僕は今とっても後悔している」 「は?」  悠哉がしゅんとした顔をする。俺はまた、近くのウェイターが運んでいた酒を奪って一気飲みした。 「昔よく行った湖の別荘。今あそこの鍵を持っています」 「ほう」 「僕はこの間、車を買いました」 「死ね」  羨ましいなチクショー。 「31日と1日は完全に業務停止だから仕事もないし、よかったら別荘に行かない?ユキさんも連れてきて、飲み会しようよ!と、もっと早くに誘っておけばよかったな、と思いました」 「おー、俺はそれでもいいけどさ。実はユキの母親も一緒なんだよな…」 「ユキさんのお母さんに会ったんだ?順調なんだね、兄ちゃん」 「ま、まあな」  なんだかとても心が痛い。泣きそうになるのは、アルコールが効いてるからだ。多分。 「寂しいから僕はトモちゃんと泉ちゃんを誘うよ」 「急には無理だろ」 「だよね」  と、言いつつ、それぞれメールを送ってみる。  ユキはどうでもいいけど、アヤちゃんはノリノリで行きたいと言いそう。そういうタイプだから。ちなみに俺とユキとアヤちゃんのグループトークがあり、俺たちは結構そこでやりとりしている。  ユキ母というより、年上の友達のような関係になりつつある。複雑な気分だ。  で、10分もしないうちに全員から返信が来た。  しかも全員参加するという、ヒマか?パーティーピーポーか?という結果になった。 「良かったな、ボッチ回避できて」  俺が爆笑しながら言うと、悠哉はプイッとソッポを向いた。でも、チラッと見えた横顔はとても嬉しそうで、兄としては満足だった。  その後加藤に、パーティー会場でスマホいじり倒すとは何事ですか?と静かに怒られたのは言うまでもない。

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