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お遊び4
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駅で相沢とわかれ、帰宅した俺は、相変わらずニコニコと笑顔を浮かべるユキから、ちょっとだけ距離を取った。
ユキは部屋の電気をつけて、上着を脱ぐと、スーパー(本当にスーパーに寄りやがった)で買ったものを片付け始める。
そんないつも通りのユキが、とても怖かった。でも、怖さよりも安心感の方が優っているもの事実だ。
ユキは俺を嫌わないでいてくれた。それだけが本当に嬉しくて、あれだけ悩んでいたのに、なんであんなに悩んでいたのかも思い出せないくらいだった。
デレクには本当に申し訳ないことをしたと思う。弱っていたとは言え、与えられる優しさに甘えてしまっていた。仕事のうちの関係だったが、デレクの言葉にどれだけ救われたかわからない。期待させることを言ってしまった。だからちゃんと謝らなくてはならない。
仕事も途中で放り出す形になってしまった。
アニキには申し訳ないとか一切思わないけど、金を出したのはアニキだから、その分は何かで返済しないと。とは思うけどしないだろうな、俺は。
「なあマキ。なんでそんな警戒してるの」
物思いに耽っていると、ユキがニッコリと微笑んで言った。片付けは終わったようだ。
「警戒…するよな?普通。お前怖い」
「なんで?」
「本気で殺されるかと思った」
「本気で死にたそうだったから」
でも、と近付いてきたユキの両手が、俺の頬を挟む。
「死にそうな顔してるマキも可愛かった」
「病んでんな、ほんと」
「恋は病だから」
「お前のそれはガチで病気だ」
そんなくだらないやりとりも、ずいぶんと久しぶりだ。
「で?」
「……で?」
首を傾げるユキに、首を傾げて答える俺。
「オレに言うことあるよな?」
「心当たりがありすぎてわかんない」
「まず、動画隠してたの謝るべきじゃない?」
「ごめん。見られたくなかったから」
「なんで?」
わかっていて聞いてるんだ。ユキは性格が悪いから。
「お前の言った通り、他人に無理矢理されて喜んでる俺を、恋人であるユキに知られたくなかったから……ユキがそれを見て興奮する変態だってこと、忘れてた」
俺の答えはあっていたようで、ユキは嬉しそうに頷いた。
「他は?」
「……仕事だと割り切ってたけど、顧客の何人かと寝た」
「それはご苦労さまとしか言えないよ。仕事だもんな?」
ユキは俺の視線が少しズレたことに気付いた。
「まあ、いいや。マキがどれだけ流されやすくてチョロいかなんて、わかってることだから」
「ごめん」
怖い。ユキの優しさの後にくる、恐ろしいところを知っているから、余計に怖い。
「他にもあるでしょ?」
「他?」
「マキが絶対に言わないことが」
なんだろう?
今まで言わなかったことなんて、言わなかったんだからわからない。
「来てくれてありがとう……」
「とりあえずの感謝なんていらない」
「うっ、バレた」
「バレバレ」
じゃあなんだろう?
「オレはいつも正直に伝えているのに、マキは適当に流すからさ…さすがに少し、イラ…悲しくなった」
イライラしたんだな。でも、イライラなんていつもしてるだろ、お前。
「マキはいつも、わかってる、とか、はいはい、とか言うけどさ、オレはお前からその言葉を聞いたことがない」
それでわかった。
汚い俺が、もう言うことなんてできないと思っていた言葉だ。
でもユキはそんなオレを受け入れてくれた。汚くても、ゲロ吐きまくっても、俺を見捨てないでいてくれた。
だから俺も、ユキに応えなくてはならない。
ごめんとも、ありがとうとも違う。
ユキは言って欲しかったんだ。
「好き、だ…」
アレ、思ったより恥ずかしいわ。
でもその瞬間の、ユキの嬉しそうな顔を、俺は死ぬまで忘れないと思う。いや、死んでも、生まれ変わっても忘れない。
「オレも」
答えると同時に、ユキの唇が俺の唇を塞いで、隙間を埋めるように深く合わさる。
他の誰かの心無いキスとか、デレクの何分の1なのかもわからないキスより、ユキの全部をくれるキスがどれだけ幸せなのかを再確認した。
「マキ、脱いで」
ベッドに押し倒され、いそいそと言われた通りに脱ぐと、ユキの舌が耳から首、首から胸へと這う。部屋は寒いのに、ユキの舌は熱い。
「ところでさ」
俺のデニムと下着に手をかけて、ユキは急に正気を取り戻したみたいに言った。
「あの外国人に何されたの?」
は?と、ユキに視線を向けると、さっきまでの甘い時間が嘘みたいに、とんでもなく黒い笑顔を浮かべたユキがいた。
「なに、って、普通にした、だけ」
「普通ってなに?」
「え?…それは、普通に、触って挿れてイったって…こと」
で、答えとしてはあってるよな?
「ふーん…じゃあ、レイプされた時は何されたの?」
「……覚えてない」
「覚えてないのにオレに見られたく無いと思ってたんだ?」
「……それは、だって…」
「オレの方が酷いことできる」
「はあ?」
言うや否や、ユキは急に俺の身体を反転させて、馴らしもしていない後ろの穴に、いつのまにか(いつでも、ともいう)ギンギンに立ち上がった自分のそれを押し当てた。
「アイツらわかってないよね。酷いことってさ、こうするんだよ」
「ちょ、やめっ!ああああっ!?イッたぁっ!!痛い!ユキ!痛いっ、マジで痛いから、ぁぁあ」
腰が逃げようとするのを、ユキの手が髪を掴んで止める。
「我慢してやってたんだからさぁ、ちょっと血が出るくらいは許してよ」
「ムリっ…ムリだって!お前、デカいんだよムダに!!」
「好きなくせに」
「ヤメテっ、んぁ、はぁ…んぅ」
勝手に涙が溢れてきて、ギュッと目を瞑って耐える。
「久々にマキとヤッてるって感じする」
「うぁ…ぁは…ん、んん」
「一回出せば痛くないから、もうちょい待ってな」
「ひぅ…ん、イタぁ…ぁ」
ユキは泣き喚く俺なんか知らん顔で、加減なく腰を振り、勝手にイきやがった。
「マキ、好き…マキは?」
「ん…ぅ、痛い…」
「言えよ」
「す、好き、だから、ちょっと待って、ぅあっ!ひぁあ…!」
グリグリと奥を突かれて背筋がゾクゾクする。
「オレはあんなヤツらよりマキのいいとこいっぱい知ってる。だよな、マキ?」
「ん、っ、ふぅ…も、いいから、動いて」
「どうして欲しい?」
「奥、奥来てっ、ぁあ!ひぁぁ、も、はげし、すき…」
「オレが好き?それともオレのちんこが好き?」
「どっ、ちも!ぃ、から、動けって!」
オラッとか、なんか叫びながらケツを叩かれ、その刺激でビュルっとところてん飛ばしながら、俺は必死にユキの動きを受け止めた。
どうして欲しい?とかどこに当てて欲しい?とか、聞かれるたびに、ああしろとかこうしろとか、今思うとめっちゃ恥ずかしいおねだり(命令かも)をしまくり、ユキはなんだかとても嬉しそうで。
俺は思う。
どんだけ酷いことされても、やっぱユキのセックスが一番だわ。
★
ぐったりした俺をよそに、ユキは終わるや否や台所に立った。
なんしてんの?と思ったけど、十分もするとなにしてるのかわかった。
有言実行の鬼みたいなユキは、宣言通りドリアを作ろうとしているらしかった。
「お前のせいで食欲ないんだけど」
ガラガラになった声を振り絞って言う。でもユキは聞いてくれない。
「なあ!お尻裂けてね?めっちゃ痛いんだけど!!」
「うるせぇなあ…縫い付けるぞ」
どこを?口を?尻を?
人の精神的苦痛となった記憶を呼び起こして笑うヤツだから、本当にやりそうで怖い。
「そういえばさぁ、なんで相沢がいたんだよ」
とりあえず話を変えるつもりで聞いてみた。
「あー、あいつに柳瀬探すの手伝ってもらったんだよ。ムダに人脈あるからな、昔から」
「ふーん。で、柳瀬はどうなった?」
ユキのことだから、報復に行くだろうな、とは思っていた。動画はアニキが買い取ったから、正直柳瀬がどうなろうが知ったこっちゃないとも思っていた。
「指折ってやった」
「うわぁ…痛」
「泣き叫んでた。全部折ってやろうかと思ったけど、相沢に止められてやめた。その後相沢がボコボコにした。あいつ、急に豹変するからさぁ、こわいんだよなぁ、昔から」
それはお前もな!そんで、類は友を呼ぶんだな、本当に。
「って言うのが、昨日の話で、お前が無断外泊した夜を乗り越えて、今日の朝からお前のアニキの会社に押しかけた」
「無断外泊はほんとすいませんでした」
「別にいい。ちゃんと帰ってきてくれたから」
そう言ったユキの声は、少し震えていた。クリスマスイブに帰れなかったことを、とても後悔する。
思えばあの日、断っとけばこんなことにならなかった。
またも後悔が胸を押しつぶそうとしてくる。
「ほんとに、ごめんな、ユキ」
俺は最低な人間だけど、見捨てないでくれて、本当によかった。
「アホだなぁ…オレはお前のこと本気で好きだって何度も言ってる。もう悩むなよ?お前がどんだけ変態でクソでビッチで、流されやすくて心が弱くても、オレは愛してるんだから」
「ん…ありがと」
と、答えてから、間違いに気付いた。
こういう時に言うべきなんだ。
伝えるのは恥ずかしいけれど、恥ずかしいことじゃない。
「ユキ、俺もちゃんと、愛してるから」
勇気のない俺は、ユキの反応を確認することはできなかったけど、ユキが少し笑ったのはわかった。
俺にはもう、お遊びの恋も、思い込みの幸せも必要ない。
ユキは何があっても受け入れてくれるから、なにも悩むことはない。
それを思い知った一ヶ月だった。
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