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第2話

鉄のハート 派遣契約終わる前から、週末の夜はバイトに入ってた。 派手じゃない、シックなつくりで、本当に普通のバー。 でも、女性客はお断りのところだから、俺的には安心。 飲んじゃうと風呂敷拡げ気味の、残念な奴だから女性客とは話したくない。 それに、ゲイを興味本位でキャーキャーされるのも嫌だし。 安心して、話せる唯一の場所だった。 コンプレックスばっかで、俺様で、わりかし最低で、弱弱な自分をさらけ出しても。誰にも幻滅されない場所だった。 その店は地下にあって、いわゆるゲイタウンではない普通の場所にあるけど、女性客が間違ってくると困るから、席にはreserveのカードが立っている。 「おはようございます~」 「カイ君、おはよ~」 お店のマスターに挨拶をすると、奥でバーテンのベストとパンツに履き替える。 ここでの名前はさとるの解から、名前をカイって名乗ってた。 マスターの趣味で、体の線がモロバレな細身のタイプで、ちょっと恥ずかしい。 身長かわいい系だし、ちょっとね~w お客さんからも、「カイ君は魅力的っていうより小動物な感じだよね~」だし これでも、可愛いって言ってもらえたりもするんだけど・・・・。 「ふふ~んだ、もう、魔法使い目指してるからきにしな~いwww」 お酒を作りながら、軽口で応酬するとお店の人たちが悪乗りをし始めた。 「カイ君の処女は誰の手に~」 「いくらくれる~?」 「ダメですよ~、魔法使いは処女童貞じゃないとww」 マスターが、こらこら、と悪乗りを止めてくれたけど、そこは酔っ払いだしね。 そんなに傷つかないし、お金払わないと貫通もできないって、笑いながら流してた。 カラン♪ お店のドアベルが鳴った。 そっちを見ると、多分迷い込んだ感じのリーマンが中をみて 「二人なんですけど、入れますか?」 『お~このメンツ見て入ってくるって、結構心臓強いね』 女性連れじゃないから、断ることもしない。 ノンケで、他のトーク聞いて嫌なら出ていけばいいしね。 「うち、チャージがかかるけどいい?」 マスターが奥のボックス席に通した。 若いリーマンに意味ありげな視線を送る客もいるけど、基本は迷惑をかけないゲイが集まる男性のための秘密の場所的なコンセプトらしいから、やらかしたら出禁なんで、そういうやつは連れが制止する。 おひとり様なら、俺みたいな店の人間が話し相手をしつつ、『メっ』ってする。 だから、ここは平和。 好きだの、愛だの、恋だのは店の外でここに持ち込むなって、暗黙のルール。 MIXナッツをシャンパングラスに入れて、テーブルへ持っていく。 一応、顔に力を入れて、お澄ましさんな感じで。 「ご注文はお決まりですか?」 にっこり笑ってどこでも言われるセリフを出した。 「伴、さん?」 「え?違いますよ、私はカイって言います」 あぶねー、こいつ知ってるやつか? 『ばんって名字じゃないんだよ、残念!じゃがじゃん』 名刺かなんかで、名字を伴BANって呼んでる人結構いるんだよ。 俺もめんどくさくいし、それで返しちゃってたから。 多分、派遣先か、なんか。 「お決まりの頃、お伺いします」 無難に下がって、マスターにちょこっと話した。 耳打ちするのに、身体をくっつけて長身イケメンマッチョの耳をはむはむする感じで内緒話をすると、常連のお客さんからは、 「カイ君のくせに生意気~、」ってさ。 ドラ〇もんかよw 「カイ君が魔法使いになれたら、お祝いしてあげるからさ~」 どっかの偉い部長さんがそう言ってくれた。 「だから、お金くれたらもらってあげるよ」 まだ悪乗りしてるお客さんがしつこく言ってきた。 「だめですよ~w 魔法使いになったらかっこいい彼氏をランプで出すんだから」 それを最後に、今日は上がらせてもらった。 だって、やばいじゃん、派遣契約まだ残ってるし、今の派遣先の誰かとかさ。 ださださ伊達メガネはかけずに、「お先に~、お疲れ様でした~」って店を出た。 こわいこわい あ~週末にひとりか~思いがけず早退になっちゃったし、たまには新規開拓で飲みに行くか、と気を取り直してスマホ検索しながら店を探した。 繁華街の少し離れたところに、ゲイバーがあるらしい。 ちょっと覗いてみて、変だったら帰ろうっと。 いろんな雑居ビルの2階にあった。 かなりしっかりしたバーだった。雰囲気は・・・高級過ぎない感じのお店。 でもカウンターが一枚板で作られてたりとか・・・・実は高級店か? 手持ちで足りるかな?なけりゃ、クレカ切るか・・・・。

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