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第8話
砂のハート
いま、何時だろう。
時計がわりのスマホをつけた。
20時過ぎだった。
あれから、着信はマスターと悪ノリさん、そして、何本か知らない番号。
マスターも、悪ノリさんも個人情報保護法って知らないのかな。
多分、賭けに加担した人たちだろうなー、とぼんやり思った。
もう、いいから。
ゲイから、宗旨替えしても良いくらい自棄になっていた。
財布をみたら、あ、そうか。
家電売ったんだ。
コンビニか、食べにいくか。
この何もない部屋に居たくないなー。
牛丼でも行こう。
部屋の電気をつけて、スーツケースをゴソゴソとやり、着替えとか簡単に出してみた。
あー、俺だけバカみたいな損したなー。
嫌われてたんかな。
暗にハブられてさ。
バカだな。
俺。
濃紺のTシャツに着替えて、財布持って部屋を出た。
ドアを開けると、何やらお手紙がはらりと落ちて来た。
管理会社にはまだ連絡してないし、なんだろう?
ポケットに突っ込んで、鍵を掛けて出た。
一夜を共にした、滑り台のある公園に来ると情けなさやら、馬鹿らしさやらが思い出された。
馬鹿みたいに必死だったし、あのクレーマーも頼まれたなら可哀想になー。
悪ノリさんが手配したんかねー。
27歳にもなれば、現実を知って夢も見るなって事なんだろうな。
やっと立ち直ったのに、また、だよ。
さすがに、一瞬樹海に行きたい気持ちになったわ!
ふらふらとしながら、繁華街へ行った。
友達連れや、仲間連れ、カップルとかもう、見る事も辛いのに今更気づいた。
さすがに21時近いと居酒屋系は空いてくるし、個室とかはいれねーかなー。
牛丼の気分じゃなくなったわ。
大手激安チェーン店のカウンターでいいや。
そう思ったけど、前にマスターが連れて来てくれた事ある、個人にしては個室が結構ある料理屋まで行かない居酒屋で、客寄せしてた。
入り口に立つ店員に、1人なんだけど個室使えたらありがたいなーっていいながら、カウンターでもいいよ、って言ったら、カップル用の個室OKいただきましたー!
ありがとう!
今日、唯一のいい事だった。
靴を脱いで、入り組んだ廊下を歩き、個室に通された。
カップルなら、近くてなんかイイ雰囲気になりそうなとこ。
前に来た時は4人か6人くらい入れる個室だったしなー、なんてバカみたいなこと考えてた。
ビールと適当に早く出るもの頼んだ。
そういや、お手紙なんだったんだろう。
ガサガサと出した所で、ビールが運ばれてお通しが来た。
ま、ビールだ、ビール!
んま!
痛んだ心が!なんてな。
一息ついて、手紙を開いた。
白い封筒が、なんかドキドキした。
手書きだった。
内容は、やはり謝罪。
賭けの対象にしても、やっていいことと、悪い事あるだろ。
クレーマーにチャンスとか訳わからん。
あいつは自分の男がいるだろうよ。
しかも、これ言い訳で謝罪じゃねーし。
この時飲み屋業界は意外に狭くて、俺がここで飲んでるの知られてるとは思わんかった。
しかも、顔覚えられてたか?
2杯目の生中頼んだ辺りで、ドヤドヤと歩く音に、こんな時間からかー、イイねー、なんて思ってたら、個室がー、とか広い個室がー、とかなんか言ってる人がいるらしく、めんどくせー、うるせーよ、な酔っぱらいになって来てた。
横開きの良くある引戸みたいな細めの扉がスラッと開いて、見えた姿は悪ノリさんだった。
「うわぁー!!!」
叫んだ、もう、叫んだ!
だっているはずないだろうよ、怖い!
もう、いやだって!
「もう、いやだ!
謝罪は受け入れたから、もう、関わらないで!
この街も出ていくし!」
涙が出た。
こんなことするまで、嫌いなら構うなよ!
かまってちゃんは殺すのに、なんもいらない。
無視してハブれば自滅する。
「カイ!
カイ!
違うから!」
口を力一杯塞がれた。
店の店員に、すまんね、個室、広い方に移動するから、オーナーにも言っといて、と。
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