「早見さん、俺…」 智樹が何か言いかけた時、 「徹(とおる)とって…。『早見』じゃなくて、下の名前、『徹』ってまだ呼んでくれないのか？」 切なく苦しそうな顔を早見はする。 「早見さんは俺が小さい時から、幸樹兄さんの親友で、社会人になってからは幸樹兄さんの…、会社の顧問弁護士に選ばれる程優秀な方で俺の憧れです。そんなすごい方を下の名前でなんて呼べません」 智樹は部屋の照明の光を利用して、智樹の瞳がキラキラと輝くようにすると、その瞳で早見を見つめた。 「それでも俺は、智樹君に『徹』と呼んでもらいたい。春日部さんのように…」 太一の名前を口にした早見は眉を顰め、明らかに嫌悪感をあらわにする。 早見さんは、勇気を振り絞って俺に『徹』と読んでほしいっていったんだな。 彼は自尊心が高いから……。 それじゃあ… 「俺が春日部さんの事を、本人の前で下の名前で呼ぶのは、俺が早見さんを思うような特別な感情を春日部さんに持っていないから…」 智樹はあえて太一のことを『春日部』と苗字で呼ぶ。 「特別な感情？」 早見は智樹から発せられた言葉を噛み締める。 「はい、特別な感情です。それが春日部さんにはないから、あんな喋り方で下の名前で呼んでも抵抗がないんです」 「…」 早見は智樹の言葉を聞き入る。