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第16話 川上 幸樹 ①

「早見さん。次会うのは幸樹兄さんだけだから、今回は他の部屋で待っててくださいませんか?」 副社長室の前まで来た智樹が早見に告げると、 「でも……」 と早見はその言葉の通りにしたくなさそうにする。 「大丈夫です。幸樹兄さんの事は俺より早見さんの方がよくご存知じゃないですか。絶対に安全です」 早見を宥めるように、智樹が早見の目をじっと見つめた。 「……。わかったよ。でもポケットにスマホを入れて、何かあればすぐに電話をしてほしい」 まだ早見は心配そうだ。 「早見さん。幸樹兄さんの事じゃかくて、俺の言葉を信じて欲くれませんか?何かありそうだったら必ず連絡します」 智樹が力強く言うと早見はやっと納得し、智樹を見送った。 智樹は早見が廊下を曲がった事を見届けると、  ーートントントントンーー 4回部屋のドアをノックした。 4回ノックする。 これは智樹が来たという合図だ。 すぐにドアが開くと、優しい笑顔の幸樹が智樹を部屋へ迎え入れる。 部屋に入って1番奥には高級デスクの上に名前のプレート。 皮張りで座り心地がよさそうな椅子に、その背後には立派な観葉植物。そして大きな一枚板のような分厚い強化ガラス窓があり、そこからの景色は他のビルを見下ろしているよう。 客人を迎えるための応客ソファーとテーブルはゆったりとしており、一度そのソファーに座ってしまうと、もう立ちたくなくなりそうだ。

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