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第45話 夜景 ③
「早見さん、よくここに来るんですか?」
「たまにね。落ち込んだ時とか、凹んだ時とかね」
早見はいつも見せないような、少し困ったような、悲しそうな、そんな複雑な顔で笑った。
「早見さんもそんな時あるんですね」
凄く意外だった。
なんでも完璧にこなす早見にも、そんな事があるなんて智樹は思ってもみなかったから。
「あるよ〜。仕事でミスった時とか、好きな子の事考えたりしたらね」
早見はチラッと智樹の方を見る。
あ、その好きな子って、多分俺のことだ。
でもこれはどうしようもない事だ。
俺が好きなのは、どんに酷い対応をされても、やっぱり雅樹だし…。
智樹は困った顔をする。
「冗談だよ。久々にちょっと智樹君を困らせたかっただけ」
冗談ぽく早見は笑ったが、その笑顔が、どこまでが冗談で、どこからが本当の事なのかは、いつも人の事を観察している智樹にもわからなかった。
そして智樹はいつも冷静沈着に振る舞う早見の弱いところに、少し触れたような気がした。
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