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第59話 環の母 ②
「さっきそこの路地裏で拾った」
環が答えた。
路地裏で拾った?
俺は捨てられてた動物と一緒なのか?
「なっ…‼︎」
智樹が反撃し始めた、その時、
「まぁ、拾ったの?」
呑気に環の母は、環の言葉を反復する。
「ちがっ…違います!捨てられてませんし、環くんに拾われてもいません!」
慌てて智樹は|環と母《ふたり》に訂正した。
「そうなの?じゃあ、お友達ね。よかったらどうぞ」
環の母は玄関に環の分のスリッパと、智樹の分のスリッパを出す。
「ありがとう母さん。でも俺、もう学校行かないと本気で遅刻するから行く。じゃ、そういう事だから、えーっと…名前は…」
「智樹」
「そうそう智樹。ゆっくりしててくれ。授業終わったら、すぐ帰ってくるから」
そういうと、環はダッシュで家を出た。
え?
え?
え⁉︎
どういう事?
環の母と智樹2人残された玄関で、智樹は今、起こった事を必死になって考えたが、一向に答えが思いつかない。
「えーっと…」
何か話さないとと、智樹が環の母に話しかけると、
「玄関で立ち話もなんだから、入って。丁度お茶しようと思ってたから、一緒にお茶でもいかが?」
智樹にニコッと微笑みかけた。
いいのか?
このままお邪魔して…
しかも知らない人の家だぞ。
智樹の足が止まる。
「あ、そうだ」
環の母が手をパチンと叩く。
「私の事は『美奈』って呼んでね。おばさんって呼ばれたら、誰のおばさんなのか、わからなくて」
そう言った美奈にまた、『どうぞ、入って』と勧められたので、智樹は『はい…』と生返事をして、部屋の中に入って行った。
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