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第72話 帰り道 ①

環の家の住所を早見に送ると、 『30分ぐらいで着く』と返信があった。 早見との電話中、雅樹から電話がり、また出られなかったが、今度は雅樹からのすごい量の着信履歴ではなく、 『帰ってこられる?俺迎えに行くから、場所教えて。本当にごめん』 とだけ書かれたメールが届いていた。 いつもの雅樹だ。 あんなに怒らせたのは、やっぱり俺のせい? 「仲直りできそう?」 雅樹からのメールを見つめていた智樹の顔を、環が見つめる。 「できるかわからないけど、できるように頑張る」 智樹が力なく笑うと、 「智樹は悪くないから。何にも悪くないから」 「‼︎」 環の言葉は、今、智樹が不安になっていた事がわかっているかのようだった。 「智樹は悪くない。悪い奴は死にそうな形相にななるまで落ち込まない…」 智樹の頭を環がポンポンと叩く。 「だから謝るにしても、無闇に謝らなくていい。雅樹に智樹の存在を考えさせたらいい。『雅樹が全部悪い‼︎』ぐらい、言ってやりな」 そう言って、環は柔らかな智樹の頬を人差し指で突いた。 予告通り、早見は30分ほどで、環の住むマンション下に着いた。 智樹は何度も何度も美奈にお礼を言うと、美奈は 『今度は泊まりに来てね』 と、優しい笑顔で智樹にハグし、玄関まで見送った。 マンション下の駐車場に車を停めた早道は、車の前で2人を待っており、その姿を見つけると軽く手を挙げた。 濃いネイビーのジャケットに、同じ色のジョーガーパンツ。 中は白いロンTに白いスニーカーを履いている。 その姿が雑誌から飛び出してきたかのようで、早見の事を見慣れている智樹も一瞬、目を奪われた。 「環君、はじめまして。早見と言います。本当は智樹君を送ると言ってくれてたのに、俺が無理言って申し訳ない」 早見が環にスッと手を差し出すと、少し慌てた環は、 「ふ、藤本環です。よ、よろしく、お願い…しまふ…」 言葉を詰まらせながら話した上に最後の言葉を噛み、それから掌の汗をズボンで拭き、早見に差し出された手を握った。 環、ものすごく緊張してる…。 ま、確かにこの容姿で、このスタイルの男性(ひと)が、まさか話しをした俺の『仲のいい人』とはだとは思わないだろうな。

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