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第81話 雅紀の葛藤
雅樹は智樹が出てきてくれるのを、部屋の前頭をうなだれさせたまま待っている。
だが、部屋のドアノブはピクリとも動かない。
広い家の中はいつもより静まり返り、空気までもピリピリしているかのようだ。
歳を重ねるごとに、智樹が美しく艶を増しながら成長するにつれ、雅樹は自分の気持ちを抑えることが難しくなっていることを認めざるを得なかった。
そして智樹が自分に対してどう思っているのかも……。
智樹と距離を取るべきだろうか…
……、考えるまでもないか。
とらないとダメだ。
でも離れられる?
自分に問いかけて、雅樹は自嘲ぎみに少し笑った。
そんな事できるわけない。
智樹と目が合うだけで、笑いかけられただけで、『おはよう』と挨拶されただけで、心の底から幸せが込み上げてくるのに、俺から離れるなんてできるわけが無い。
だから、仕方ないんだ。
俺が智樹に嫌われるようなことをしないと…。
智樹に嫌われて避けられないと、俺からは離れられない。
でも嫌われたくない。
智樹だけには絶対嫌われたくない。
でも嫌われないとダメなんだ。
嫌われて新しい人に目を向けてもらわないと…
雅樹の頭の中で、相反する言葉がぐるぐると回る。
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