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第83話 智樹!
『少し時間をおいた方がいい』
母さんはそう言ってたけど、俺がこうして部屋でじっとしている間に、智樹の気持ちはどんどん俺から離れていくんじゃないだろうか?
でも、智樹が俺から離れていくことを、俺は望んでいたじゃないか…。
これでよかったのか?
こんな形でよかったのか?
俺はヒートの時だけ、智樹を助けられたらいい。
そうなるべきだと思っていたのに、俺が智樹から離れられない。
苦しいんだ。
悲しいんだ。
智樹がいないだけで。
拒絶されて…、胸が張り裂けそうだ。
雅樹は自室のベッドに仰向けに寝転がり、虚な目で天井を見つめながら、智樹を思う。
生まれてからずっと一緒。
喧嘩もしたが、こんなに拗れることはなかった。
瞳を閉じれば、脳裏に浮かぶのは智樹の笑顔。
『雅樹』と呼ぶ智樹の姿が浮かぶと、閉じたはずの瞳から涙が溢れ出し、目尻から流れ出すと雅樹の頬を伝う。
ただ智樹のことを思い続け、どれぐらい時間が経っただろう…。
家の中が静まりかえっているのに気がついた。
一体今、何時だ?
雅樹がスマホで時間を確認すると、4時過ぎだ。
寝ることもなく、ただぼーっと天井を見つめていた雅樹は、智樹の寝顔だけでも見たいと、智樹の部屋に行くと……、
!!!!
智樹のベッドは空だった。
たしかに寝た跡はある。
だが智樹の姿がない。
智樹!?
雅樹が慌てて智樹のスマホに電話をかけると、ベッドの上で光る、智樹のスマホを見つけた。
智樹!どこに!?
雅樹は智樹のスマホも手に持ち、部屋を飛び出した。
そして家中探し回る。
ダイニングもトイレも風呂場も、今は使われていない幸樹の部屋も…、両親の寝室以外、全て探したが、智樹の姿はどこにもない。
玄関にはいつも智樹が履いている靴が残っている。
!!!!
もしかして、誰かに攫われた!?
川上家のセキュリティーは最新で万全だ。
どんな不審者も、そうそう入ってこれないし、ましてや智樹の様な大きな人間を音もさせず連れ出すことなど無理だ。
普通の雅樹なら一瞬でわかるが、智樹がいない事でパニックになっている雅樹は、そんな事も気がつかない。
どうしよう!
どうしよう!!
どうしよう!!!!
雅樹は家を飛び出した。
雅樹は探し回った。
近所の公園、コンビニ、学校の前まで走った。
智樹をストーカーしていたヤツはまだ刑務所だ。
だからあいつの仕業ではない。
じゃあ誰だ?
頭をフル回転させるが、わからない。
智樹が自分から出て行った?
どうして?
俺が嫌なら、家にいても俺を避ければいいじゃないか!!
どうしていないんだよ!!
変な気、おこしてないだろうな!!
心配しすぎて、吐きそうだ……。
雅樹は思いつくまま智樹を探すため走り回り、シャツが流れ出した汗で肌に張り付く。
どうしよう……。
途方に暮れている雅樹の脳裏に、ある人の言葉が浮かんだ。
『何かあったら、連絡しておいで』
!!!!
雅樹はスマホを取り出し画面をタップし、ある人に電話をかけると、
『もしもし、雅樹、どうしたこんな時間に…』
バックには少し賑やかな音がする中、電話越しに優しい声がした。
「敬也《けいや》さん…助けて…」
涙を堪えながら今にも消えそうな声で、雅樹は助けを求める。
『!!!!雅樹、今どこだ?すぐに行く、位置情報メールで送れ!』
先程までの優しい声が一変緊張が走り、雅樹が位置情報を送ると、
『そこが安全なら、動くな!電話も切るな!わかったか!?』
雅樹を心配する声で言うと、電話口の向こうで慌てて移動する音がした。
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