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第11話 目覚め ①
ーーピッピッピッピッーー
病院の個室のドアを開けると、規則正しい心拍数が晶の耳に入ってくる。
「先輩、遊びに来ましたよ」
「…」
「今日は『ひまわり』にしました。夏ですからね」
「…」
「外、びっくりするぐらい暑いですよ。だから、今日の部活は室内筋トレだそうで…。それはそれでキツイですよね」
「…」
「じゃあ、花瓶の水、変えますよ。…大丈夫です。まだ綺麗な花は捨てません」
「…」
晶は何の返事もない神谷に話しかけ、まるで会話をしているかのように振る舞う。
神谷は一命を取り留めた。
だが、あらから一週間、目を覚さない。
医者からは
『もう、いつ目覚めてもいい頃』
と言われ、そして
『いつ目覚めるかは、わからない』
とも言われた。
晶は毎日、学校帰り眠ったままの神谷の病室に顔を出し、色々話しをしていた。
「先輩、中間考査の結果がかえってきたんですけど、すごい点数で……って、悪かったんですけどね、また今回も薫と一緒に教えて……」
晶はそこまで言いかけ、ハッとし、言葉を詰まらせた。
先輩。
いつもは薫と一緒に俺に勉強、教えてくれてましたよね。
もう、それもできない。
薫はもういない。
だけど、そう思えないんです。
『あれは嘘だったんだよ』って、どこからか薫が出てきてくれそうで……
ねぇ先輩。
俺と一緒に薫の事、探してくれませんか?
もう俺1人で探すの…
限界なんです。
「やっぱり1人は…、限界です…」
「…」
晶がそっと神谷の手に触れたが、反応はない。
「……。先輩、今日はもう帰って、また明日来ますね」
そう言って、神谷に触れていた手を離すと…
!!!!
神谷の指が、微かに、ほんの微かに動いた。
「先輩⁉︎⁉︎」
慌てて晶が声を掛けると、
「!!!!」
またピクリと動く‼︎
「先輩、わかりますか⁉︎俺です‼︎晶……、松原晶です‼︎」
また動く。
「先輩‼︎」
晶は急いでナースコールを鳴らす。
「どうしましたか?」
元気な看護師の声が聞こえると、
「先輩が…、神谷さんが目覚めました‼︎」
晶は叫んだ。
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