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第19話 川口
その日の晩。
神谷から『あれから、色々考えたんだ』と、電話があった。
その神谷から一つお願いをされた。
『松原と付き合ってることは誰にも言わない、そのかわり、今までと同じように接してほしい』
今度は晶が『どうしてですか?』と聞き返すと、
『急に態度変えたら、周りからおかしくみられるし…、それに何か思い出しそうだから』と言われ…
そう言われてしまうと断りづらく……………
晶は神谷との約束通り、以前と同じようサッカー部の練習を、以前と同じ場所に座っていると、
「病み上がりの神谷が部活に出たいって言ったの、松原が見に来てくれるからか〜。…はい、これ、あげる」
部活の休憩時間にサッカー部部長の川口が晶にペットボトルに入ったスポーツドリンクを手渡し、晶の隣に座った。
「あ、ありがとうございます」
晶は受け取るも、飲まずに手に持ったままだ。
「…で、大丈夫なのか?」
川口は晶の顔を覗き込む。
大丈夫って……なにが?
もしかして、神谷先輩のこと?
「先輩なら、先輩自身が大丈夫って言われてましたよ。俺も詳しいことはわからないので、はっきり言えませんが…」
川口先輩もそんなに心配なら、直接本人に聞けばいいのに…
「神谷のことじゃねーよ。松原、お前のことだよ」
「え?俺…ですか…?」
「そ、お前。前と全然かわんねーから、心配になってさ」
前と変わらなくて、心配になる?
「お前、…無理してるだろ。いろんなこと…」
「‼︎…そんなこと…」
晶が言いかけた時、
「それにさ、神谷になんて頼まれたかしらないけど、無理して見学しに来なくていいって」
川口が晶の頭をポンポンと叩く。
「俺はさ、気の利いた事言えないから、うまく松原に伝わるかわかんねーけど…、つらいだろ?長谷部のいないココは…」
‼︎‼︎
「俺からあいつには言っておくからさ、松原が帰りたかったら帰っていいぞ……って……」
「大丈夫です……。泣いてませんから……」
くそっ…
涙我慢してるのに、どんどん溢れてくる……
泣くな、俺‼︎
泣くなって‼︎
晶は制服の袖で目を擦る。
「これ貸してやるから」
川口は晶に鍵を渡す。
これって…
「部室の鍵…ですよね」
「そ。そこで思いっきり泣いてから帰りなよ。落ち着いたら、また鍵閉めて誰かに渡してくれてたらいいし。だから今日はもう帰りな」
悔しいけど、
いま、俺涙が止まらなくて…
原因は…
いろいろありすぎて、わからないけど、
このまま、ここにいても涙止まりそうにないから…
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