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第20話 川口 ②

「お借り…します。鍵は後で、監督にお渡ししておきます」 「ん」 手渡された鍵を晶は握り締める。 「ありがとうございました。でも、俺、本当に無理してませんから」 晶は川口にぺこりとお辞儀をすると、 「それを無理してるってゆーの。でも、ま、自分のタイミングで気をつけて帰りなよ」 もう一度、川口が晶の頭をポンポンと優しく叩いた時、 「松原‼︎」 「神谷先輩⁉︎」 さっきまでグラウンドで紅白試合をしていた神谷が、息を切らしながら晶と川口のところまで走ってきてた。 そして、晶の顔を見て、川口をギラっと睨む。 「川口、松原になんていったんだよ」 「なにって……」 「何もないです!」 神谷の質問に答えようとした川口の言葉を晶が遮った。 先輩にこのこと、バレるわけにはいかない。 「じゃあなんで、目、赤いんだよ。泣かされたんじゃないのかよ⁉︎な、川口‼︎」 「違うんです‼︎」 川口に掴みかかろうとしていた神谷の腕を、晶が止める。 「違うんです!これは…そう、目に、目にゴミが入って擦ったら、こうなってしまって…だから、…だから……なんでもないんです!」 「違うだろ、松原…」 だまっていた川口が口を開いた。 ダメだ‼︎ 言わないでください、川口先輩‼︎ 「神谷、お前は何思って松原にこんなことさせてるんだ」 川口は晶に話しかけていたときとは全く違う、キツい声をしている。 「なにって…」 「特に何も考えてなささうだな。ま、そっちの方が安心した。そうじゃなかったら、俺が殴られる前に、俺がお前、殴ってたから」 川口は続ける。 「神谷お前、ここに…、ここに長谷部がいない部活見せられてる松原の気持ち、考えなかったのか?」 「!!!!」 驚きで、神谷の目が見開かれる。 「バカなお前でもわかるよな。だから、松原には『もう帰れ』って言ったんだ。それだけ…。って神谷にも言っておいたから、松原。安心して帰れよな。あ、あと、部室。好きに使っていいから」 神谷にはキツイ表情を見せていた川口だが、晶には優しく微笑み、 「さ、帰る帰る」 2人の間で立ちすくむ晶の背中を川口が押した。 「じゃ、俺も帰るわ」 神谷が晶の腕を握る。 え? 「松原と一緒に帰るわ。あと、部活もしばらく休む」 「わかった。監督に言っとく」 神谷の申し出を、川口はあっさり承諾した。 「え⁉︎ちょっと待ってください‼︎なんでですか⁉︎」 意味わかんねー。 なんで神谷先輩、部活途中でやめて俺と帰って、 なんでしばらく部活休んで、 なんでそれオッケーなんだよ。 「松原。お前も神谷も静養が必要だ。2人とも無理すんな。ほら、早く2人とも帰れ」 川口は神谷と晶、どちらの背中も押した。

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