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第21話 嘘のキス ①

「先輩、怒ってるんですか?そんなに引っ張られたら、手首、痛いんですけど」 川口と別れてから、神谷は晶の手首を握ったまま、部室までずんずん歩き続け、部室のドアを勢いよく閉めると…… 「!!!!…先…輩…?」 晶は神谷に抱きしめられた。 「ごめん。俺が悪かった…」 「…」 「松原の気持ち…、考えてるつもりだったけど、本当は自分の気持ちしか考えてなかった…」 「…」 「前と同じにしてたら、なにもなかったかと思えるかも…。思い出せるかも…って…。だから…」 「いいですって先輩」 徐々に涙声になっていく神谷の背中に、晶は腕を回しぎゅっと抱きしめ返す。 「先輩が何か思い出しそうだったら、それでいいですって」 「…」 「俺、そんなにか弱くないんで、大体のこと、大丈夫ですよ」 もし俺が薫や神谷先輩の事を、忘れたくなくて忘れてしまってたら、俺はなんとしてでも思い出そうとする。 多分、今の神谷先輩は、なにを覚えていて、なにを忘れているか不安なんだ。 俺は、俺ができること。 それで先輩の助けになるなら、していきたいと思ってますよ、先輩。 「先輩、帰るんですよね。いつも帰りにマッ○に寄ってたんですけど、今日も行きますか?」 晶が元気に言うと、 「キスして…いいか?」 「…え?…」 晶は驚きすぎて、反応が遅れた。 「キスしていい?」 神谷は晶の目を見つめる。 「え……、冗談ですよね…」 冗談キツい… 本当に… 俺、偽物の恋人だから… 「恋人のこと…松原の事好きだなって思っちゃダメなのか?」 「…それは…」 ダメだ。 先輩が俺に対して持っている好きは、擬似的な物だ。 先輩、今弱ってるから、すぐ近くにいる俺のこと頼りたくなって… それで…… 「なぁ……ダメか?……」 あ、やばい…… 先輩から目、離せない… 神谷の晶を見つめる瞳に夕日が反射して、黒い瞳をより際立たせ、 やばい…… 晶はその瞳に吸い込まれるように神谷に近づき… キスをした。 あ……やっちゃった…… ダメなのに…… 晶はそう思いながら唇を離そうとしたが、それを阻止するように、神谷が晶の腰と頭の中後ろに手を回し、そして、 「‼︎…………っん……」 神谷は晶の唇を舌でこじ開け、口内へと入り込んできた。 まって‼︎ 晶は神谷を押し退けようとしたが、晶をしっかりと抱きしめている神谷はびくともしない。 神谷の舌は晶の歯並びを舌でなぞり、舌を絡め、上顎を舐める……

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