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第27話 映画館 ①
え…………。
「先輩、一つ質問してもいいですか?」
晶は座席に着くと、神谷の方を向いた。
「言いたいことはわかるが…、質問どうぞ」
そんな神谷も苦笑い。
「どうしてこんなにガラ空きなのに、予約で取った席が一番後ろなんですか?」
周りを見渡すと、劇場内は人もまばら。
この映画自体は人気があるが、上映され始めてだいぶ日にちが経っているので、それもよくわかる。
なのに、神谷がネット予約してとった席は一番後ろの丁度真ん中。
そして晶と神谷が座っている列には、2人しかいない。
「前の席、空いてますね」
「だな」
「両サイドっていうか、この列、誰もいませんよね」
「だな」
じゃあ、なんでこの席?
「松原の言いたいことは、わかる。『なんでこの席?』だろ?俺も少し考えたんだけどさ、もしかしたらこうしたかったのかも。松原、手、貸して」
「手…ですか?」
晶が神谷に手をさしだすと、
「‼︎‼︎」
「多分、こうしたかったと思う」
神谷は晶の指と指の間に自分の指を入れ、手を握った。
「え‼︎あ‼︎……えー⁉︎⁉︎」
まじですか⁉︎
ここ外ですよ。
人が沢山いる、映画館ですよ‼︎
繋いだ手が熱くなる。
て、手汗が……
手汗が気になり手を離そうとするが、神谷がぐっと握り離せない。
「先輩。手、離してもらえませんか?」
晶は手を引き抜こうと引っ張るが、
「イヤだ」
神谷は意地でも離さない。
恥ずかしいけど言うしかない。
「でも、俺……、手汗が……」
「それ俺だと思う」
神谷は少し照れる。
「松原と繋いでる方の手、ドキドキしすぎて熱いぐらいだし。それに松原の手、気持ちいいから離したくない」
『離したくない』
その言葉が晶の頭の中に響く。
『俺も離したくないです』
晶は言葉に出す代わりに、神谷の手を握り返した。
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