32 / 68

第35話 触れたくて、触れていて ①

ずっと見てられる。 病院で眠る先輩のそばにいるのは辛かったけど、 それから先輩は目覚め、 俺の記憶は無くしてしまったけど、 それでも、俺は先輩のそばにいれて… 「ん……」 神谷の瞼が微かに震え、そして目覚めた。 「おはようございます、先輩」 目覚めたばかりの神谷の顔を、晶は覗き込んだ。 すると、 「‼︎‼︎」 晶は神谷に抱きしめられた。 「先輩…?」 「…いなかったら、どうしようかと思った…」 「え?」 「起きた時松原がいなくて、もしまた松原の事忘れてたらって思うと…、怖かった…」 晶を抱きしめる神谷の力が入る。 「先輩のそばにいるっていったじゃないですか。それに、もしまた忘れられるても、また思い出してくれるまで、しつこいぐらいいますよ」 抱きしめながら、晶が微笑む。 本当ですよ、先輩。 先輩が『いなくていい』って言ってもいます。 俺が先輩のそばから離れられなくなってますから…… 「本当に…いてくれるか?」 晶を抱きしめる神谷の腕が…、背中が…、手が… 「先輩…、震えてる…」 神谷の震える背中を、晶が抱きしめる。 「……松原……」 「そばにいます。それでも心配だったら、こうして俺を抱きしめてください」 そうして俺も、先輩を感じていたいんだ。 「俺はずっと、こうして触れたかった。松原に触れたかった…。抱きしめて、松原を感じたかったんだ」 「……先輩……」 嬉しすぎて泣きそうだ。 俺もずっと触れたかった。 触れて欲しかったです… 先輩… 前は遠くから見てるだけで、よかった。 その次は先輩の視界に、俺が入り込めるだけ。 その次は先輩と話せて、 次は仲良くなれて、 次は先輩、後輩として一緒に出かけれて…… 次は、次は…って、欲が出てくる。 先輩は薫の恋人。 そう思っても、先輩が思い出すまで、 俺、偽物でもいいから恋人でいたい。 特別になりたいんです。 先輩を独り占めしたいんです。 先輩、俺を独り占めしてくれませんか? 他のこと、何も考えられなくなるぐらい…… 今だけ、 今だけ、 俺だけ、 見てくれませんか?

ともだちにシェアしよう!