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第47話 松野と飲み会

「先輩、実は俺、前から先輩といきたかった店があって…ここなんですけど…今日ここ行きませんか?」 信号待ちの時、松野は真司との距離を縮め、携帯で店のホームページを見せる。 それは顔と顔がくっつきそうなぐらい… 「‼︎お前、顔が近い!もーそこの店でいいから…離れろ」 松野の顔を真司はぐーっと押し返す。 そんな扱いをされても松野は嬉しそうにしている。 「じゃあ俺、個室空いてるか、電話してみますね」 個室? 別に個室じゃなくても… 「空いてるそうです。早くいきましょう」 信号が変わったと同時に、松野は真司の手首を掴み走り出した。 松野が言っていたとおり人気なのか、店の中はほぼ満員だった。 「先に電話しててよかったですね」 店員に部屋を案内してもらっているとき、松野が真司に耳打ちする。 「‼︎」 真司が驚いて体をびくつかせる。 「先輩って、耳、弱いんですね」 また、松野が囁いた。 その囁く感じで蓮の囁きを思い出してしまい、真司の顔は真っ赤になった。 「よ、弱くわない。びっくりしただけだ」 「そんなに顔を真っ赤にしてるのに…ですか?」 松野がにやりと笑う。 このイケメン野郎… 調子狂うな。 部屋に案内され、真司はカルパッチョなどを摘みながら、松野の愚痴を聞く。 でも、それは別に個室にまできて、するような話ではなし、松野もなかなか本題に触れようとしないまま、アルコールに弱い松野はすでにベロベロになっていた。 「で、松野。本当は何を相談したいんだ?」 半ば呆れながらも、なかなか話し出さない松野に真司が問いただす。 「先輩って…」 目は朦朧として、赤い顔をしながら松野が話し出そうとした時、真司の携帯の着信音が鳴った。 チラッと発信者をみると蓮からだ。 本当ならすぐにでもでたいが、今は松野の話を聞くのが先だ。 蓮には後で謝っておこう。 真司は電話を切った。 「…先輩、蓮さんからですか〜?電話に出なくていいんですか?」 フラフラしながら、松野が真司の隣に座ってきた。 「また後で電話するからいいよ。今は松野の話が先。それで?」 一瞬、松野が嬉しそうな顔をして、真司の肩に頭をのせる。 「先輩って…俺のことどう思います?」 松野は真司を熱ぽい上目遣いで見つめる。 「‼︎」 思いもよらない質問に動揺し、真司は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。 「どうって…よくできるイケメン」 「…だけですか?」 松野は少し悲しそうに目を伏せる。 「あとは…いつもよく笑ってて、元気で、可愛い後輩」 「それ以上は何もないんですか?」 松野は悲しそうに真司を見つめる。 「…俺諦めませんから!」 松野が真司の手を握る。 「‼︎なにを⁉︎」 手を握られた事に驚くのと、朝の一件について聞かれるかと思っていたのに、想定外の話をされ、真司は訳が分からなくなっていた。 その後も松野はビールを飲み進め… アルコールに弱い松野は案の定というべきか、すぐに酔っ払い、もう一人では立てなくなっていた。 このまま一人で帰すのは心配だし… 仕方ない… 家まで送るか… 「松野、帰るぞ」 会計を済ませて、松野に肩を貸して部屋を出ようとした時、二度目の蓮からの着信があった。 『もしもし真司。今大丈夫?』 声をひそめた蓮の声。 「大丈夫。蓮、今仕事中なんじゃないか?」 『もう少しかかるかも…真司は今、外⁇』 電話ごしに聞こえる雑音で蓮は真司が外にいる事に気がついたようだった。 「松野っていう後輩…あ、朝会った奴な。そいつと飲みに行ってて、酔っ払ってるから今から送って行くとこ」 「そうなんだ…」 「また、家に着いたらメールする。蓮、あんまり無理するなよ」 「……真司も気をつけて、俺も連絡するよ」 真司は蓮の悲しそうな声がひっかかったが、ふらふらの松野を連れて帰る事が精一杯だった。

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