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第74話 引越し祝い ②

ロッカー室にいくと、そこには松野がいた。 「あ、先輩。おはようございます」 いつもの元気な挨拶に真司の笑みが溢れた。 「おはよ。今日は一段と元気だな」 「そうなんですよ。今日は先輩に渡したいものがあって…はい、これ」 松野は自分のロッカーから紙袋を取り出し手渡した。 この紙袋って… 「先輩気付きました?それ、有名な和菓子屋さんのお菓子です」 「でも、どうしてこれを俺に?」 「それはもちろん先輩の引っ越し祝いです」 松野はにっこりと笑う。 「本当に悩みましたよー。実用性のあるものにしようかと思ったんですけど、残るものだと蓮さんがイヤな気持ちになるかもしれないし、次は先輩の好きなコーヒーショップの豆にしようかと考えたんですが、もし俺からのプレゼントのせいで、蓮さんがそこのコーヒー飲めなくなったらって…ほら、匂いとな味ってその時の記憶を蘇らせやすいっていうじゃないですか…それで、次は先輩の好きな焼き菓子は?と思ったんですが、蓮さんは甘いのダメだし、先輩は苦いのダメ…」 「そんなに気を使ってもらって…」 「でも、ここで俺は閃いたんです‼︎先輩も蓮さんも喜んでもらえるもの!それは、せんべいです!これだと甘いのダメな蓮さんも、苦いのがダメな先輩でも食べられる‼︎凄くないですか⁉︎」 松野はこれでどうだ‼︎と言わんばかりのドヤ顔。 「そこまで考えてくれて…ありがとう。蓮といただくよ」 「喜んでもらえて良かったです。もし俺が引っ越した時はお願いしますよ…って、俺が引っ越す時は先輩と一緒に住むか…」 「‼︎」 「先輩驚きすぎ。冗談ですよ」 驚き目を見開いた真司の肩をポンポンと叩きながら、松野が仕事場へ向かった。 ありがとう。野宮、松野… 俺は本当に人に恵まれてる。

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