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第91話 訪問者 ③
「それで…椿ちゃんの様子はいかがですか?」
真司はずっと気になっていたことを梓に聞いた。
「あれからは、すっかり元気になり、以前のように塞ぎ込む事もなくなりました」
梓は嬉しそうに微笑んだ。
「それはよかったです。ホッとしました」
つられて真司も微笑む。
「椿も一生懸命主人を説得しようとしているのですが、主人は聞く耳をもたなくて…」
「そうですか…」
そればっかりは、仕方ない。
蓮のお父さんにはお父さんの考えがある。
だから無理強いする事はできない。
「でも、それは仕方ない事ですし。椿ちゃんがそう思ってくれている事が、私は嬉しいです」
「…佐々木さんは本当にお優しいんですね」
「いえ、そんな…」
「私も椿も蓮さんと佐々木さんの幸せが一番だと思っています」
梓は強い意志で真司と蓮に伝える。
「私も蓮さんのお父様と結婚する時、本当に周りの方々から反対を受けました」
「…」
「私自身も、死別された奥様の事を深く愛されていた主人の気持ちを考えると、私との再婚はしない方がいいと思っていました」
「…」
「ですが、それでも私とこの先一緒に歩んでいきたいと言い続けてくれた主人は、周りの反対を押し切り、なんの取り柄もない私と結婚してくれました」
「そんなことがあったんですね…」
梓の話を聞いて、蓮が驚いた表情で呟いた。
蓮、今までそんな話し聞いた事なかったんだ。
「それに本当のところは主人もお二人の事認めたいんだと思います。ただ頑固なところがあるので、それを表に出せずにいるだけだと思います」
「…」
「主人の事は私に任せていただけませんか?」
「え?お任せするって…?」
梓の提案に真司が聞き返す。
「私が主人を説得してみせます。だから蓮さん、佐々木さん。お二人はお二人だけの幸せを大切にしてください」
「…」
「子供の幸せを願わない親なんていませんよ」
梓は蓮と真司の手を握っり、にっこりと笑った。
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