92 / 118
第92話 訪問者 ④
「お時間を取らせてしまい、すみませんでした。それでは失礼します」
玄関で見送る蓮と真司に梓は丁寧に頭を下げると帰っていった。
「蓮、素敵なお義母さんだったね」
「うん」
梓の事を褒められて、蓮も少し嬉しそうだった。
「でも、お義母さんが来られてるんだったら、そう言ってくれればよかったのに。じゃあもっと…」
「もっと早くに帰ってきたのに…だろ?」
蓮は真司の考えが分かっていたかのようだった。
「梓さんが自分が来ている事は真司に知らさないで欲しいって…真司の仕事の迷惑になりたくないって。もし会えなかったら、また来るって…でも一応真司には早く帰ってきてって伝えておきたくて…仕事中にごめん…」
「そうだったんだ。連絡ありがとう。俺も梓さんにきちんと会えて嬉しかったよ」
そういう気を使うところ、蓮と似てるな…
そんな梓さんが言うから大丈夫だ。
蓮のお父さんの事はお任せしよう。
「俺、梓さんが家に来るって聞いた時、別れなさいって言う話をされるんだと思ってた」
蓮の気持ちではないが、蓮の口から『別れ』と言う言葉が出ただけで、真司は胸が苦しくなった。
「でも、そうじゃなくて、父さんを説得するって言いにきてくれたんだな…家族に認められるって、こんなに嬉しいもんなんだな」
嬉しそうに微笑む蓮を見て、真司はギュッと抱きしめた。
蓮は一人でこんなに辛い思いを背負ってきたなんて…
「蓮…今まで、よく頑張ってきたね…」
「‼︎…うん…がんばった…」
真司が蓮の頭をポンポンと叩くと、蓮が真司の肩に顔をうずめた。
ともだちにシェアしよう!