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第93話 梓との会話の後
梓が二人の家を訪れてから、真司は仕事が立て込み、バタバタする日々を送っていた。
蓮は蓮で、大口の契約が取れた仕事が本格始動し始め、二人の時間はますます少なくなってきていた。
そんな中、真司は梓と蓮が言った言葉と笑顔が、ずっと心に引っかかっていた。
『子供の幸せを願わない親なんていませんよ』
『家族に認められるって、こんなに嬉しいもんなんだな』
あの二人の笑顔が忘れられない。
一人で頑張ってきた蓮に俺はなにが出来るんだろう…
俺も、あと一歩進むべきなんじゃないか…
これからの二人にとって大切な何か。
俺の出来ること…
「蓮、今いい?」
真司は書斎で仕事をしていた蓮に声を掛けた。
「ん?どうした?」
蓮はかけていたメガネを外し、微笑みながら真司の方に向き直した。
「あのさ…もし、蓮がよかったら、俺の母さんに会ってくれないか…?」
「え⁉︎」
蓮の笑顔が一瞬固まる。
「来週の日曜、姉さんの子供の誕生会があって、母さんがこっちまで出てくるんだ。だからその時に…」
「…」
「蓮は俺の恋人だって、大切な人だって知ってもらいたくて…」
「…」
蓮はしばらく黙り込んで、
「真司はそれでいいの?俺の事、友達じゃなくて…恋人だって紹介して…」
「もちろん‼︎」
「でも、俺、男だし…」
蓮が口籠る。
「俺は、蓮だからこそ、ちゃんと母さんに紹介したいんだ」
「……」
「でも、蓮が嫌だったら無理強いはしないよ」
真司は口籠ったままの蓮をそっと抱きしめる。
「…真司が本当にそれでいいなら…」
蓮も真司の背中に腕をまわた。
「蓮、ありがとう!」
真司は嬉しさのあまり蓮をより抱きしめたが、その時、蓮の腕が震えていたことに真司は気がついていなかった。
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