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番外編「武田と品川の怪しい行動」

 暮羽が高杉のしつこさに参ってきた頃。  武田と品川は何故かオカルト研究会を覗いていた。 「お邪魔しまーす」  武田がドアを開ける。  品川もその後に続いた。  オカルトと聞いて黒魔術のようなものを想像していた2人は、整然とした室内を見て拍子抜けしてしまう。  魔法陣をかたどった手作りポスターや、陰陽道の模様の入ったポスターなどが貼られているくらいで、想像していたオカルト系のグッズなどはほとんど見えなかった。  だが、外界と全く違う雰囲気が漂っているのも確かだ。  どこがどう、とは言えないのだが。 「いらっしゃい」  奥でパソコンに向かっていた青年が振り向く。  手作りらしいポスターはパソコンで作ったのだろう。 「えっと、俺、武田。で、こっちが品川。あんたが部長の······」 「荻野だ。よろしく」  振り向いた青年は立ち上がって自己紹介した。  武田たちと同じ2回生らしい。  しかし専攻学科が違うので顔を合わせた事はなかった。  きりっとした顔立ちの、なかなかのイケメンだ。  表情は穏やかで、最初の印象は広瀬に近い。  だが、広瀬とは正反対の雰囲気を持っている。 「ああ、よろしく。それで、ちょっと相談したい事があって来たんだけど」  品川が用件を切り出した。 「相談?それじゃコーヒーでも淹れるからそこに座って」  荻野は2人にソファを勧め、自分はコーヒーの用意を始める。  やがて、良い香りのコーヒーが運ばれて来た。  荻野は2人の前にカップを置いて、自分用のカップを持ったまま向かいに腰掛ける。 「で、何だい?相談って」 「俺らの友達で雪村っているんだけどさ」  武田が切り出した。 「そそ。で、そいつが、3回生の高杉って奴にストーカーされちゃってんの。まともに相手しても埒があかねー奴でさ。何かいい方法ないかなって思って」  品川が後を続ける。  荻野はそれを聞いて少し考えた。  見かけに寄らず、友達思いのいい奴じゃないか。  そう思いながら2人を見る。 「で、オカルト研究会に何を相談したいの?」 「まともに相手してても埒があかねー訳よ。だから」  品川はさっきと同じ事を言う。 「まともじゃないやり方で何とかしようと?」 「そんな感じ。オカルトっつっても色々あるんだろ?」 「だから何か面白そうな事ないかなって」  荻野の問いに、武田と品川は答えにならない返答をする。 「一体、何が言いたいの?」 「何て言うか、霊的パワーの込められたグッズとか、おまじないとか、ない?」  武田は怪訝そうな顔をする荻野を見ながら、しれっとした顔で言う。 「高杉って奴を遠ざけるおまじない?」 「まあ、そんなとこかな」 「おまじないねえ······」  荻野は複雑な顔で考え込む。  友達思いなのは確かだが、考え方が少しずれている気がする。  そう考えながら、茶髪でピアスだらけの青年、武田を見た。  楽しげな顔で自分の返事を待っている。  そしてピンクの髪の、これまたピアスだらけの青年品川はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。 「何かいいおまじない、無い?」 「おまじないって言っても色々とあるからね。例えば、有名なのがわら人形なんかを使った呪いとか。必要な物を用意してちょっとした儀式を行う西洋の黒魔術みたいなのもあるし」 「じゃあさ、何か手軽なグッズない?持ってるだけで高杉が近付いて来なくなるような」  品川が訊いた。 「作ればあるけど、わら人形とかと同じでそいつの身体の一部が必要になるよ。爪とか髪の毛とか」 「じゃあパス」  荻野の言葉を聞いて品川は眉をしかめた。  高杉の身体の一部を手に入れる事が嫌だったからだ。 「効果は期待できないけど、もっと簡単なおまじないがあるよ」 「あ。それがいいや。どうやるの?」  武田の顔がぱっと輝く。  荻野は苦笑しながらもその方法を教えてくれた。 「無病息災とか家内安全のお札みたいなやつ?」 「そう。だけど、効果は期待できないよ。気休め程度のおまじないだから」 「ああ、それはいいんだ。とりあえず気休めで」  武田はうなずいて、コーヒーを飲み干した。 「それじゃさっそく、やってみるか~」  品川もコーヒーを飲み干してそう言う。  そして2人は立ち上がった。 「本当に効果は期待できないよ?」  荻野は尚も言うが。 「全然かまわないって」 「そそ。気休めでいいからさ」  武田と品川はひらひらと手を振って、礼を言いながら出て行った。 「面白い連中だな」  荻野は楽しげな笑みを浮かべていた。     「なあ、お前ら何やってんの?」  暮羽は呆れた顔で武田と品川を見ていた。 「ん?ちょっとした気休めだよ。気にすんな」 「そそ。ただの気休め」  2人は訳のわからない事を言いながら、小さく折りたたんだ紙を目立たない場所にセロハンテープで貼り付けている。  ここは暮羽のアパートだ。  一度高杉が来て以来、あまり帰らなくなってしまっていたが、久し振りに帰ったら急に武田と品川が来たのだ。 「なあ、それ何なの?」  暮羽は怪訝そうな顔で2人を見る。  武田も品川もかなり怪しかった。 「だからさ、気休めのおまじない」 「そそ。気休め気休め」  2人は真面目に答えようとせず、いたる所にその紙を貼りまくっている。  折りたたまれているので何が書かれているのかはわからなかった。 「変な奴······」  そしてそうつぶやくと、暮羽は呆れた顔でため息をついたのだった。    暮羽が引っ越した後の部屋に、新しい住人が入居した。  まだ若い青年は、初めての1人暮らしに何やらわくわくしている。  そしてこれから生活が始まる部屋を見回した。  まだ荷物が片付いていないのでダンボール箱だらけの部屋。  これからの生活を想像しながら窓を開ける。  かさ。  窓枠の目立たない所に貼ってあった紙が落ちて来た。 「何だこれ?」  青年は折りたたんであるその紙を拾う。  セロハンテープは糊が乾いていてすぐに剥がれ落ちた。  ゆっくりと紙を広げる。  そこには筆と墨で“高杉退散”と書かれていた。 「?」  青年は首を傾げながらも、その紙をゴミ箱に投げ込む。  そしてその後、至る所にその紙が貼ってあるのを発見するのだった。  終。

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