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番外編「天使の微笑み」

1人称広瀬視点の番外編です *************  僕の名前は広瀬快都。  趣味は写真撮影だ。  だから大学では迷わず写真サークルに入った。  だけど写真部はそれほど人気がないようで、メンバーは少なかった。  2年の春、メンバーに上級生がいなくなったせいで僕がリーダーをする事になった。  副リーダーは同級生の吉原。  メンバーは少なかったけど、写真を撮るのが大好きな連中ばかりでサークル活動は楽しかった。  秋の大学祭では初の写真展を開催したりもして、存在感が薄かった写真サークルもようやく注目を浴びてきた。  だけど、モデルをやってくれる素人の子がなかなか見付からなくて困ってたりする。  大抵の可愛い子や格好良い子には恋人がいて、その恋人が許可してくれなかったりするんだ。  プロのモデルを雇うとなると金銭面が厳しい。  冬休み前、翌年の3月に開催される市の写真展の事を考えていた。  風景写真を撮っている暇はないから人物のスナップで行く予定なんだけど、早めにモデル探しをしておかないと出展できるかどうか怪しくなってくる。  スタジオは何とか空きのある日を何日か押さえたから、それまでにモデルを探さない事にはどうにもならない。  でもそう簡単に見付からないんだよね。  午前の講義が終わって食堂へ行くと、隅の目立たない場所にあるテーブルにひとりで座る人物が目に入った。  離れているからよくはわからないけど、線が細くて繊細な感じの、すごく綺麗な男の子だった。  女子の視線にも全く気付かない様子で飲み物を飲んでいる。  あんな子この大学にいたかな······。  とにかく、中性的で憂いを帯びた雰囲気の綺麗な子だ。  時折前髪をかきあげるのが何て言うか、色っぽいんだ。  僕はガラにもなくドキっとしてしまった。  同じ男なのに、ちょっと変だ。  でも、あの子が写真のモデルとかしてくれたらすごくいいのが撮れそうな感じだ。  飲み物を飲み終えたその子は僕の視線にも気付かずに食堂を出て行く。  僕が我に返ったのは、その子が出て行って随分経ってからだった。  すぐにでもモデルに誘ってみるべきだったと後悔する。  そして、あれ以来食堂で見かけなくなってしまった。  同級生に色々と訊いてみたんだけど結局探し出せないまま冬休みに入ってしまった。  冬休みもまだ終わらない正月の真っ只中。  僕はサークルのメンバーを集めて3月に開催される市の写真展に出すための写真をどうするか話し合っていた。  つまり、冬休み返上って訳だ。  部室にはメンバーが勢ぞろいしていて、テーブルには飲み物の入ったカップやペットボトルが置かれている。 「今回は写真展まで時間がないから、風景は諦めて人物写真で行こうと思ってるんだけど」  僕はあの男の子を思い浮かべながらメンバーに言う。  あの男の子を探し出せれば、モデルにスカウトするんだけどな。  残念ながら、名前も学年もわからない。 「それでいいよ。風景写真は大学祭に間に合えばいいしな」  僕の言葉にサブリーダーの吉原がうなずいた。 「それで、肝心のモデルが見付かってない訳だけど、誰かモデルしてくれそうな人を知ってたら教えてくれないかな」  僕はテーブルに着いているメンバーを見渡す。  メンバーの1人が手を挙げた。  1つ下の、岩谷と言う男だ。 「岩谷、何?」 「モデルは男でもいいんですか?」 「ああ。性別は不問だよ」  そう言いながら、どうしても頭からあの男の子の顔が離れない。  今、僕の中ではあの子の右に出る者はいなかった。  何であの時に声をかけなかったんだろう。  自分のうかつさを恨んでしまう。 「あの、引き受けてくれるかはわからないけど、男で顔のいい奴なら知ってます」  岩谷が言う。 「誰だい?」 「同級の雪村暮羽って言うんですけど。美術サークルの品川とか、バスケサークルの武田なんかとよくつるんでるみたいです」  岩谷が答える。  中性的な響きのある名前だ。  何となく、あの時の男の子が浮かんだ。 「そうか。バスケサークルなら友達がいるから当たってみるよ」  僕は岩谷にうなずいた。 「その雪村君がダメならお前がモデルやれよな」  吉原がにやにや笑いながら僕を見る。  僕は肩をすくめた。  吉原はいつも僕にモデルをさせたがる。  何故かわからないけど、吉原に言わせると僕はどうやら爽やかイケメンなんだそうだ。  僕は自分の顔が良いとか悪いとか、あまり考えた事がなかった。  それに僕は写真を撮るのが好きなのであって、撮られるのは正直言うとあまり好きじゃない。  何としてでもその雪村君にモデルを引き受けてもらわねば。  僕は心に誓ったのだった。  冬休みもそろそろ終わりに近付いた頃。  バスケサークルの友達に頼んで、武田君とやらを紹介してもらった。  茶髪で、ピアスをばしばしつけた今風の若者だった。 「どうも初めまして。武田です」  待ち合わせの喫茶店で適当なテーブルに着いて、武田君は簡単に挨拶をする。 「初めまして、よろしく。写真サークルの広瀬って言うんだけど」 「ええ、知ってますよ」  自己紹介すると武田君はうなずいた。  どうやら僕は下級生の間でも有名らしい。  とりあえずコーヒーを注文すると、武田君もコーヒーを頼んでいた。 「話は聞いてると思うけど······」 「はい。うちのリーダーから聞いてますよ。暮羽にモデルしてもらいたいって話ですよね?」  外見に似合わず礼儀正しい態度で武田君が訊く。  しゃべり方も体育会系特有の「~っス」ではなく、普通の敬語だ。  僕はうなずいた。 「ああ。うちのサークルの岩谷が、雪村君の顔なら充分モデルになるって言うものだから」 「確かに暮羽の顔ならモデルにしても問題ないと思いますけど、あいつすげー人見知りする奴なんですよ。引き受けてくれるかどうか微妙ですね」  武田君は困ったような顔で考え込む。 「とりあえず、会うだけ会ってみたいんだけど、紹介してもらってもいいかな」  僕は武田君に頼んだ。 「ああ、いいですよ。何なら今呼んでもいいし」  武田君はあっさりうなずくと、すぐに携帯電話を取り出した。  どうやらすぐにつながったらしい。 「あ、暮羽?俺。今、写真サークルの広瀬さんて人と一緒なんだけど来れるか?そそ。喫茶店なんだけど、店の名前は······」  武田君が話をつけるのを、僕はコーヒーを飲みながら聞いていた。  どうしても食堂でみた子が頭から離れなかったけど、中性的な名前の雪村君はどんな若者なんだろうと、楽しみでもある。  岩谷曰く「無口で無愛想だけど、顔だけはいい奴」らしい。  それはつまり、顔は良いが性格に問題がある、とも取れるんだけど。  やがて武田君は電話を終えた。 「暮羽から了解取りましたよ。5分くらいで来れると思いますけど」 「そうか。わざわざすまないね」 「あ、いいですよ別に。俺も暮羽も暇人ですから······あ、暇人がもうひとり来た」  武田君はそう言いながら、店内に入って来た派手な若者に手を振る。  その若者は武田君に気付いてすぐにやって来た。  僕を見て軽く頭をさげる。 「初めまして、品川です」  彼も礼儀正しく名乗った。  そして武田君の横に座る。  この2人がいつも雪村君とつるんでいると言う事だけど······。  品川君は武田君以上にピアスをびしばしつけている。  しかも髪はピンクだ。  確か岩谷は品川君を「美術サークルの──」と言っていたと思うけど。  この外見で美術サークルとは意外だった。  バンドでもやってそうな雰囲気なのに。  やっぱり人は外見では判断できないな、と妙に納得する。  そして、雪村君は一体どんな外見なんだろうとますます興味が湧いた。  人見知りが激しいようだからすぐには打ち解けてくれないかも知れないけど。 「でも暮羽がモデルをすんなり引き受けてくれるかどうかだな」  品川君が武田君に言う。 「そんなに人見知りがすごいのかい?」  僕は少し不安になって来た。 「最初だけなんですけどね。仲良くなってしまえば全然普通のいい奴ですよ。まあ、普通に愛想のある奴と比べると無口で無愛想かも知れないけど」  武田君が言う。 「そそ。いい奴なのに、人見知りが激しいせいで損してる奴ですよ。でもまあ、暮羽は人付き合い苦手だからそんなに問題ないみたいだけど」  品川君が横から言った。  この2人はいつも一緒にいるようだ。  会話の感じから息が合っているのがわかる。  一緒にいると楽しいだろうなと思った。  そして、雪村君が現れた。  口元を隠しているマフラーと、目にかかる長い前髪で顔はほとんどわからない。 「······初めまして、雪村です」  雪村君はためらいがちに頭をさげて、コートを脱いで僕の隣りに座った。  そして店員にココアを注文すると、首に巻いていたマフラーを取る。  白くて細い首が露になった。  脱色も毛染めもしていないらしい黒髪がうなじにかかっている。  髪が黒いせいで肌の白さが際立っていて、僕はちょっとドキっとしてしまった。 「お前ほんとココア好きだな~」  武田君が笑う。 「ほっとけ」  雪村君は口を尖らせて武田君を睨んだ。  そして今度は僕の方を向く。  だけど、前髪が長い上にうつむき加減だからやっぱり顔がわからない。 「······話っていうのはモデルの事ですよね。聞いてますよ」  ためらいがちに、だけどきちんとした言葉遣いで僕に話しかけてきた。  どうやら雪村君も礼儀正しい若者みたいだ。 「3月に市の写真展があるんだけど、モデルが見付からなくて困ってたんだ。良かったらモデル引き受けてくれないかな。大したお礼はできないけど」  僕はできるだけにこやかに言う。  しかし、本当にモデルとして充分なルックスなんだろうか。  どんな顔か見ない事には。 「やって見ろよ暮羽。お前の顔なら無表情でも大丈夫だって。突っ立ってるだけでも絵になると思うぞ」  品川君が楽しそうに言う。  雪村君は運ばれたココアを一口飲んだ。  そしてため息をつきながら前髪をかきあげる。  顔が露になった。  一瞬、心臓が止まるかと思った。  あの時、食堂で見かけた子だ。  間違いない。  前髪はあの時よりちょっと伸びてるだろうか。  食堂で見かけた時はちょっと離れてたからわからなかったけど、近くで見ると肌の肌理が細かくてますます綺麗だ。  顔のパーツにしても、形も配置も申し分ない。  名前と同じで、中性的な美貌。  品川君が言う通り、無表情でも充分いけるルックスだった。 「俺、写真撮られるの苦手なんですけど······」  雪村君はうつむき加減のまま、上目遣いで僕を見る。  またドキっとした。  どうしてだろう。  男にドキドキするなんて。  これじゃまるで一目惚れみたいだ。 「やっぱりダメかな」  僕は少しがっかりした顔で雪村君を見た。  人見知りが激しいと言うのは本当のようだ。  撮られるのが苦手と言うのもうなずける。  無理に頼む事はできなかった。  だけどそうなると、写真展そのものを諦めなきゃいけなくなる。  それに、このまま雪村君と縁が切れるのが嫌だった。  それがどういう感情からくるのか自分でもわからなかったけど。 「ポーズとか表情とか作るの下手ですけど······それでもいいなら引き受けますよ」  僕が考えていると雪村君はためらいがちにそう言った。  その言葉に僕はほっとした。 「良かった。モデルが見付からなくて、写真展の出展は諦めようかと思ってたんだ。是非お願いしていいかな」  嬉しさを浮かべた顔で雪村君を見る。  照れているのか恥ずかしいのか、雪村君はうつむいてココアを飲んでいた。  何気ない仕草にも、何故かドキドキしてしまう。  何だろう。  ドキドキと言うよりも、胸が躍るって言う表現が合うような感覚。  こんな感覚は、今まで感じた事がなかった。  自分でもこの感覚が何なのかわからない。  一番合う言葉を探すなら、それはやっぱり「一目惚れ」しかないだろう。  武田君と品川君が撮影を見学したいと言うので、僕は快く了解した。  雪村君も、知り合いがいた方が緊張がほぐれるんじゃないかと思ったんだ。  そしてすぐに撮影の日取りや場所の打ち合せを始める。  雪村君の都合のいい日と撮影スタジオに空きがある日を照らし合わせて、待ち合わせの日時と場所を決めた。  名残惜しかったけど、話は終わってしまったので仕方なく雪村君たちと別れる。  だけど撮影がすごく楽しみだった。  帰り道、吉原に雪村君の事を報告する。  ようやくモデルが見付かって、吉原も安心していた。  そうだ、岩谷にも一応電話入れておこうかな。  雪村君の事を教えてくれなかったら写真展を諦めてたかも知れなかったから。  そして、岩谷にも電話を入れた。  “あの雪村がオッケーしたんですか?”と驚きを隠せない様子だった。  自分で推薦しておいてそれはないんじゃないのって思っちゃったけど、でも岩谷が驚くのも無理はない。  武田君がこっそり教えてくれたんだけど、雪村君は本当に人見知りが激しいらしく、人に見られるモデルなんかを二つ返事で了解するのなんて初めてなんだそうだ。  “きっと広瀬さんの人柄ですよ。あいつ、人を見る目はあるから”と品川君にも言われ、ちょっと照れてしまった。  僕はどうやら運がいいらしい。  やがて撮影の日が来た。  僕はもちろん、他のメンバーたちも気合充分だ。  どうやら雪村君は同級生の女子の間では密かに人気があるらしい。  だけど人見知りが激しいから合コンに顔を出すなんて事はほとんどないし、いつも一緒にいるのは武田君と品川君だけなんだそうだ。  キャンパス内でもできるだけ人目につかないように行動しているって言うから、僕が今まで全く知らなかったのも当然かな。  そもそも学部が違う。  同級生だったとしても教室で顔を合わせる事はそうないだろう。  撮影に借りたスタジオの最寄りの駅で雪村君たちと待ち合わせをした。  何日振りかに見た雪村君はやっぱり中性的で綺麗な顔だと思った。  衣装はこっちで用意すると言ってあったから今日の服装は普段着だと思うけど、かなりセンスが良い。  自分の外見、体型に合う服をわかっているって感じだ。  でも本人にそれを言うと「安物を適当に着ているだけ」らしい。  雪村君ほどの美貌だとどんな服でもセンス良く見えるんだな、と感心した。  やがてスタジオに到着する。  こちらで用意した衣装を雪村君に渡して、僕はカメラの準備を始めた。  武田君と品川君はその様子を邪魔にならないようにスタジオの隅で眺めている。  しばらくして、着替えた雪村君が入って来た。  ライトやスクリーンの準備をしていたメンバーが口笛を吹く。  天使だと思った。  別に特殊な衣装を着ている訳じゃない。  ちょっとゆったりめの白いハイネックセーター。  だけどそれが肌の白さに溶け込んでいてとても幻想的だった。  長い前髪はセンターで分けてあって、顔がはっきりと見える。  ぱっと見じゃ男に見えない。 「じゃ、雪村君。スクリーンの前に来てもらえるかな」  僕は胸の高鳴りを抑え、雪村君に声をかけた。  雪村君は言われた通りスクリーンの前に歩いて来る。  雪村君の白い肌が映え、輪郭が浮かび上がって見えた。 「それじゃ撮影に入ろう。照明オッケー?」 「オッケーです」  照明係のメンバーが手を振る。  撮影が始まった。  ファインダー越しに雪村君を見つめる。  最初は硬い表情だった雪村君も、武田君や品川君が声をかけるお陰で段々と柔らかい表情を見せるようになってきた。 「暮羽、まだ顔が硬いぞ。もっとにこやかにしろよ」  武田君が楽しそうに声をかける。 「そうそう、もっと笑えよ~。お前の笑顔は核兵器並みの破壊力あるんだからさあ」  品川君も便乗して声をかける。  そして。 「何言ってるんだよバーカ」  雪村君は呆れたように品川君を見たあと、ふわりと微笑んだ。  核兵器よりもすごいと思った。  抱き締めたい、キスしたいって衝動が湧いた。  この微笑を僕だけに向けてくれたらどんなに幸せだろうと思う。  そして、やっぱりこの感情は「一目惚れ」だったんだと実感する。  気付くと無意識にシャッターを切っていた。  もちろん、出展する写真はこれで決まりだ。  そして撮影は滞りなく終わった。  手伝ってくれたメンバーに労いの言葉をかける。  だけどちょっと寂しかった。  これでもう雪村君と会う理由がなくなるから。  またモデルを頼めば引き受けてくれるだろうか。 「お疲れ様。今日はありがとう」  僕は雪村君にできるだけの笑顔でお礼を言う。 「いえ」  雪村君は照れたような顔でうつむいた。 「すごくいいのが撮れたよ。本当にありがとう」  感謝を込めて、もう一度お礼を言う。 「······役に立てて良かったです」  雪村君はうつむきがちに言うと、着替えに行った。  カメラの片付けをしていると、武田君と品川君が意味深な笑みを浮かべて近付いて来る。 「広瀬さん、もしかして暮羽に惚れたりしてません?」  いきなりの武田君の言葉に、僕は目を丸くした。 「······なんで?」 「俺たちこれでも、暮羽に近付く邪な野郎は警戒してるんですけど」  品川君が言う。 「広瀬さん、暮羽に一目惚れしたでしょ?笑顔に撃沈されてましたよね」  武田君が言った。  撃沈どころか木っ端微塵に粉砕された気がする。  確かに、あの美貌なら男が惑わされてもおかしくないと思った。  そしてきっと、僕もそんな中のひとりになるんだろう。  僕は雪村君に、惚れてしまっている。 「僕も邪な野郎だと?」  うつむきがちに2人を見た。  本当に雪村君を大事に思っているんだろう。  彼らが警戒するのは当然の事だと思った。 「そんな事言ってませんって。暮羽が、広瀬さんに興味あるみたいなんで」  武田君が手をぶんぶん振る。 「え?」  武田君の言葉は意外だった。  どう見たって、雪村君が僕に興味を持っているようには見えない。 「あいつ本当に人見知り激しいんですよ。でも広瀬さんと初めて顔合わせた時、わりと普通にしゃべってたでしょ?」  品川君が言う。  そう言えば、普通に挨拶したし、普通に話したような気がする。 「初対面の人間にあんなに普通に話してる暮羽、初めて見たんですよ」  武田君が言った。 「自分ではわかってないみたいだけど、広瀬さんの事は初めから警戒してないって言うか」 「それに、前に言ったようにあいつ結構人を見る目あるから。相手が男なのはちょっと意外だけど、それもありかなっては思ってるし」 「それってどういう······?」  僕は戸惑いを隠せない顔で2人を見る。 「だから、もしも、もしもですよ?広瀬さんが暮羽に純粋に恋愛感情を持ってるなら、俺たちはそれを応援しようかなって。もしもの話なんで、俺たちの勘違いだったら気にしないで下さい」  武田君は真剣な顔でそう言った。 「暮羽はまだ自覚してないと思うけど、相手が広瀬さんなら俺たちは反対しないし、そこらの女とくっつくよりは安心できるかなって」  品川君も真剣だ。  真剣に、雪村君の事を考えてるって事がわかった。  雪村君にはこんな大事にしてくれる友達がいるんだと思うと羨ましかった。  そして僕は。  この際、性別なんてどうでもいいと思った。  僕が雪村君に恋愛感情を持ってしまっているのは確かだから。  着替えを終えた雪村君が戻ってくる。  武田君と品川君は、僕をじっと見つめていた。  この2人には敵わない。  僕の感情に気付いて、雪村君の感情の変化にも気付いて。  どうやら僕も雪村君も、この2人の策略にはめられそうだ。  臨むところだ。 「応援、よろしく頼むよ」  僕はにっこり笑って2人を見た。 「そうこなくちゃ」 「任せてくださいよ」  2人は不敵な笑みを浮かべてうなずく。  話の見えない雪村君は、不思議そうな顔で僕らを見ていた。  出展した写真のタイトルは「天使の微笑み」。  ベタだけどこれ以外にしっくりくるタイトルが見付からなかったんだから仕方ない。  でもあれを見た人は必ず納得すると思った。  そしてその天使が僕だけのものになる日がくるかも知れない。  僕は写真を見つめながらひとり胸をときめかせていた。  終。

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