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ワガママ王子と悪戯猫(3)
悠さんの部屋は、マンションの部屋を思い出すほどシンプルだった。
最低限の家具と、最低限の小物。
庭で育てたものだろうか、赤い小さな実をつけた小枝が窓際に色を添えている。
暖房はついているものの少し肌寒いので、俺は先にベッドにもぐり込むことにした。
冬場の寝具は、初めはやはりひんやりする。
しかし、お風呂に入ったばかりなおかげで体は温まっているため、すぐにシーツや掛け布団がぬくぬく温かくなっていく。
枕は二つ置いてある。
どっちが悠さんのでどっちが俺のか判らない。
ふと、以前幸くんが言っていた事が頭に浮かんで、すんすんと枕の匂いをかいでみた。
あ。こっちが悠さんのだ。
すぐに判った自分に、犬かよ!と思わず内心ツッコむ。
苦笑しながらもうひとつの方に頭をのせて、目を閉じてみた。
うん、これは眠れる。
頭まで布団にもぐりこんで、全身の力を抜いてリラックス。
肌触りのいい毛布が、またシャツから脱け出した肩を優しく撫でる。
それはまるで悠さんの懐に抱きしめられて、優しく撫でてもらっているようで……。
……。
しばらくして、きぃと音をたてて部屋のドアが開いた。
「ん、おい颯人?まさかもう寝ちまったんじゃねぇよな?ベッドに行ってていいとは言ったが、先寝てていいなんて言ってねぇぞ」
入ってきた悠さんが、ばさりと無遠慮に掛け布団をはがす。
冷たい空気にさらされて、俺は反射的に毛布を引き寄せてくるまった。
「寒いじゃないですか」
毛布の端から目だけ出して悠さんを睨む。
「鼻先だけ出して、モモンガかよ」
悠さんが見下ろして、笑いながら手を伸ばしてきた。
何をするのかと思ったら、頭を撫でられた。
何だかさっきから子供扱いされている気がする。
思いきり顔で不満を表して悠さんを睨んでから、再び暖かな毛布に頭までもぐりこんだ。
「なんだよ、そんな可愛い真似すんじゃねぇよ。寝らんなくなるだろ」
目を細めて笑った悠さんが、ベッドに寝ころぶと毛布ごと俺を抱き寄せる。
「あれ?俺の枕は?ここに置いてあったろ。どこやった?」
「もらいました」
「もらった?……あ、何抱えてんだよ。枕返せよ」
「やです」
悠さんの枕を抱えて丸くなる。
「おい颯人、やってることが幸と同じだぞ。いいのかそれで。がきんちょだぞ」
背中から抱きしめられて、耳をかじられた。
「だって気持ちいい匂いがするんです」
「それも幸が言ってたぞ。どうしたんだ颯人、箍が外れちまったのか」
くすくす笑いながら俺の肩にキスをする。
全部悠さんの匂いでいっぱいになって、頭がおかしくなりそうだ。
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