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ワガママ王子と悪戯猫(8)
「悠さん、出なくていいんですか?」
「いいんだよ、あんなもん!クソ、昨日のはミュートにしたのに。今度は誰だよ!」
呼び出し音がいったん鳴り止んだところで、悠さんが嫌々起き上がって画面を見に行く。
携帯は昨日悠さんが払い落としたまま、毛足の長いラグの上に横たわっている。
そのまま悠さんはその上にしゃがみこんで、人差し指だけ伸ばしてちょいちょいと何か操作している。
「おーし。これでよし、と!」
満足そうに悠さんがベッドに戻ってきて俺を抱きしめ直した。
「誰からだったんですか?」
「ん?うっさい奴から。いいんだよ気にしなくて」
うっとりと目を細めて俺の髪に指を通す悠さん。
「でも昨日、結構長い間鳴ってましたよ?いいんですか出なくて」
途端に悠さんの機嫌が斜めを向き始めた。
「なんだよ颯人、俺よりあいつらの方が気になるのかよ。昨日は初夜だぞ?俺以外を見るんじゃねぇ!」
衝撃の事実が発覚した。
「えっ、昨日のって初夜だったんですか?私まだ引っ越しもしてないし、結婚だって、事務所の皆さんに宣言しただけですよ?」
俺が目を丸くして悠さんを見ると、悠さんはちょっとむくれた。
「初夜じゃなかったんなら何だってんだよ。一緒に住み始めて最初の夜だぞ?どう考えても初夜だろうが」
「そうなんですか?じゃあその……ちゃんと結婚してからの最初の夜はどうなるんですか?」
「んーとなー」
悠さんが幸せそうな顔をして、俺の頬を撫でる。
「昨日のが初夜第一幕な。んで、引っ越し済ませて、ちゃんとここが颯人の家になったら、初夜第二幕。結婚した日の夜は初夜第三幕で最初のクライマックスだな」
ああ、もしかしてこのお方、馬鹿なんじゃなかろうか。
「ええと、ツッコミたい所が多々あるんですが、この際我慢します」
「そうな、颯人はツッコまれる側だからな」
「……下ネタは受け付けません」
悠さんを軽くにらむと、まあまあとでも言いたげな顔で宥められた。
「いいじゃんこれくらい。あは。颯人ほっぺた赤いのかわい」
「見ないでください。で、結婚した日がクライマックスってどういうことですか。まだその後があるんですか?」
「当り前だろ。颯人の誕生日に、俺の誕生日、初めて会った記念日、プロポーズ記念日と……」
「それ、もはや初夜ではないですよね」
それでも悠さんは嬉しそうなのをやめない。
「ずっと一緒でも、常に新鮮な気持ちでいたいだろ?俺はこの先もずっと、颯人のこと抱くたびに、昨日みたいにドキドキしたいんだよ」
ぅ……。
「どうした颯人。こっち向いてくれよ」
悠さんの言葉が嬉しすぎて、顔が燃えるように熱い。
でも照れてるのが悠さんにばれたら、また可愛いって言われるから、俺は寝返りをうって悠さんに背中を向けた。
「颯人ぉ。初夜だめ?颯人が嫌なら、仕方ないから俺の中だけで盛り上がることにするけど。でも、きっとそっちの方が楽しいぜ?」
背中からぎゅっと抱きしめられて、悠さんの鼓動が伝わってきた。
とくん、とくん、と軽やかに楽し気に跳ねている。
「……記念日に」
「うん?」
悠さんの心の音に負けた。
頬がまだ熱かったけれど、悠さんの方に向き直って見上げる。
「記念日に、初めてキスした日も入れておいてください」
悠さんが嬉しそうに俺の額にキスをくれた。
「そうだな。忘れちゃいけないな」
この先、悠さんと一緒なら、人生で退屈することなんてないだろう。
そう思った。
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