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ワガママ王子と悪戯猫(10)

「あー」 携帯をまたラグの上に放り出すと、悠さんは天井を仰いで嘆息した。 「颯人と俺の浮き浮き休日プランが……」 「何ですかそれ」 「ん?颯人といちゃつきながら引っ越しの準備を進める計画。颯人の部屋は、二人が初めて結ばれた思い出の場所だからな。最後まで俺も立ち会いたいの」 懐かしむように悠さんは言うが、俺にはそんなスムーズに引っ越し準備ができる気がしない。 「たまには思い出にひたるのもいいですけど、私にはそのプラン、途中で片付けに飽きた悠さんに押し倒される結末しか見えないです」 「そうか?俺には思い出にひたってるうちに、我慢できなくなった颯人が、俺の膝の上に座ってほっぺた赤くして可愛くおねだりしてくる未来が見えるけど」 「絶対そんなことしません!!」 悠さんが馬鹿なことを言うせいで顔が熱い。 「ほら、もうほっぺ赤いぜ。後はお膝に乗るだけだ」 おいでおいでと悠さんが手招きする。 乗ってたまるか。 「もう九時半過ぎてます。十時に駅で待ち合わせしてるんでしょう?馬鹿なことやってる場合じゃないですよ」 「はーぁ。ほんとに迎え行くのか?じゃあせめて颯人も一緒に来いよ。ついでに颯人の部屋寄って、さしあたって必要なものだけでも持ってこようぜ。着替えとか。その寝間着姿は、高校生にはまだ刺激が強すぎる、っていうか俺以外にその格好見せたら許さねえ。浮気とみなす」 「自分で着せといて何言ってるんですか」 「予想以上にエロの極みだった。R18指定だな」 「もう着替えます。二度と着ません」 まったく、とんでもない物を着せられた。 ◇ ◇ ◇ 悠さんの運転する車で駅に向かいながら、悠さんがチラリ、チラリと助手席に座る俺に視線を向けてくる。 俺が、何ですか?と聞く前に、悠さんが口を開いた。 「なぁ颯人」 「はい?」 「あいつらには、結婚の話まだ秘密な。父さん母さんも揃ってるところで、ちゃんと颯人を紹介したいからさ」 「分かりました。近いうちに、私の両親にも会ってくださいね」 「そうなんだよなー!すっげぇ緊張する」 「悠さん緊張なんてするんですか?」 ちょうど信号待ちで車が止まり、悠さんはぐったりとシートにもたれた。 「あったり前だろ!俺なんて、他よりちょっとピアノが上手に弾けて、ついでにちょっと顔が良いだけの一般人だぞ」 謙遜なのか、自慢なのか、どちらとも分からない台詞を吐いて悠さんは再び走り始めた。 せせこましい道を抜けるとすぐに駅前のロータリーだ。 適当なところで車を止めると、間髪入れずに双子が駆け寄ってきた。 「悠!遅い!十時って言ったじゃん!もう過ぎてんじゃん!」 「はぁ?この俺様がわざわざ車だして迎えに来てやったんだぞ?!それだけで十分だろが」 悠さんがムッとしたようすを見せると、双子はさりげなく俺の方に視線を移した。 さすが兄弟、癖の強い兄の扱いにも慣れている。 「越野さん、こんにちは。今日は越野さんもお泊まりなの?」 「そーだよ、お前ら行儀よくしろよ?ワガママとか言うなよ?」 どの口が言うのか。 けれども双子は素直だった。 「うん、頑張る」 「じゃあさっさと乗れ。行くぞ」

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