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ワガママ王子と悪戯猫(12)
創くんと一緒に、買った物を家の中に運びこんで、食材を冷蔵庫なりキッチンなりにいったんしまう。
俺の荷物はとりあえず悠さんの部屋に置いた。
追いかけっこで体力を使った悠さんは、ソファでぐったりと天井を仰いでいる。
幸くんは悠さんの膝を枕に、早くもうつらうつらしていた。
「颯人ぉ……悪い、お茶飲ませてくれ。冷蔵庫に麦茶入ってるから」
「はい」
グラスに麦茶を注ぐと、悠さんの前のテーブルに置いた。
ついでに俺も含めて三人分も用意する。
「さんきゅ。あーあ、全然ダメだ、あんなんで疲れるなんて。ショック」
悠さんはため息をついている。
「現役高校生を本気で追いかけたら、疲れますよ。体力で勝てるわけないじゃないですか」
「でもこいつら帰宅部だぞ。授業終わったらだべって帰るだけのヘタレだぞ。そんな奴に負けたくねぇ」
そういえば悠さんは最近ジムに通っているんだった。
「もっとメニューを厳しくしてもらおうかな……」
悠さんがそう呟くと、幸くんが目を開けた。
「ふゎぁ……。今俺たちバスケ部入ってるよ」
あくび混じりにそんなことを言う。
「たち、って、創も一緒なのか?」
「うん。俺たち結構いい線行ってるんだからね」
「はー。攪乱でもすんのか?」
「あはは。とっておきだよ」
ここまで似通った顔が二人いたら、敵だけでなく味方も混乱しそうだ。
「顧問の先生が結構本気で、走り込みとか筋トレとか結構厳しいんだよな」
ダイニングテーブルで麦茶を飲みながら創くんが言う。
「なー。おかげで腕も脚も筋肉ついてきたもん」
幸くんが寝転がったまま腕まくりをして見せる。
細いがしっかり筋肉がついている。
「お前らが運動部とか、意外過ぎだろ。なんでまた急にそんなん始めたんだよ?」
「んー。なんでだろうね。何となく今のうちに青春しとこうかなって」
創くんが麦茶を一口飲んで首を傾げる。
「悠も、俺らぐらいの年からここに住み込んでたじゃん」
「俺のアレは、別に青春してないぞ。ひたすらよーこー先生とピアノ弾いてただけ」
悠さんは懐かしそうに目を細めた。
「悠、すっげ楽しそうだった。洋行先生のこと好きなんじゃないかってくらい」
「馬っ鹿野郎、先生のことは崇拝してたっての。もちろん今もな」
しばらくそのまま、思い出話で盛り上がった。
俺は実のところ、白峰洋行の演奏を聴いたことがない。
めったに人前に出ることがない人であったし、それ故チケットの入手が極めて難しかった記憶がある。
音源も出していないから、俺の中の『白峰洋行』という人は、人伝に聞いたものでしかない。
懐かしそうに盛り上がる三人に、いや、悠さんと思い出を共有している二人に、俺はひっそりと嫉妬した。
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